スマートロック「NinjaLock」で知られるライナフは、不動産テック企業の中では珍しい、ハードウェアも手がけるスタートアップだ。加えて、物件確認の電話を自動音声で応答する「スマート物確」、内覧希望者にデジタルキーを発行し、内覧予約の煩雑さを解消する「スマート内覧」といったソリューション事業を提供している。
「不動産愛が爆発している」と話す通り、常に不動産に軸足を置き、新製品やサービスを開発しているライナフ代表取締役の滝沢潔氏に、ハードウェア開発をはじめた背景から、新たに目指す「サービスが入ってくる家」の現状まで話を聞いた。
——ライナフは不動テック企業でありながら数少ないハードウェアスタートアップでもあります。NinjaLockを開発した経緯を教えてください。
私は大学卒業後、不動産会社に2年勤め、その後7年間を信託銀行の不動産部で過ごしました。会社員をしながら、26歳のときにビルを1棟買いして、個人的に不動産投資を始めたんですね。その後物件は4棟まで増えましたが、いずれも銀行から融資を受けてすべてローンで購入していました。
フルローンでの不動産投資は何が一番怖いかと言うと、空室なんですね。空室率が50%を超えると持ち出しが発生してしまうのですが、会社員の給料で払える額なんてとっくに超えている。それはもうドキドキの連続でした。
そこで、なんとか空室を埋められないか、空いている不動産を少しでも有効活用できないかと考えたのが、起業の出発点です。私が所有していたビルは中古物件が中心で、新築物件のような競争力はない。でも周りには中古物件がたくさんあるんですよね。不動産愛が強い私にしてみると空いている物件は本当にかわいそうなんです。こうしたかわいそうな物件を生み出しているのは人間であって、不動産に罪はない(笑)。人間が有効活用できる仕組みを作るべきだと思いました。
——お話を聞いていると、スペースシェアリングサービスのような方向にいきそうですが。
正当なイメージで進むと、民泊や時間貸しの方向へ進むと思うのですが、複数のビルに複数の空室があると、時間貸しには大きな問題あるんですね。それが受付なんです。貸し出す部屋の鍵を渡す受付を用意する必要がありますが、それを個人でかつ個々の空室に用意することは不可能ですよね。この代わりになるようなものを作ろうと考えたのがNinjalock開発のきっかけです。
当時、スマートロック自体は米国のクラウドファンディングで資金を募っている会社があったのですが、それは米国で使用されている鍵にしかつけられない仕様だったので、日本の鍵に装着できるスマートロックをつくろうと考えました。それがあれば、空室を1時間単位で使えるなど、新しい不動産の使い方ができると考えました。
——時間貸しスペースを管理するためにNinjalockを作ったのですね。ただ、ハードウェアの開発はかなり大変だと聞きましたが。
ものすごく大変でしたね。スタートアップはハードウェアに手を出してはいけないと言われていますが、まさにその通り(笑)。まずとにかくお金がかかる。Ninjalockの1号機には、開発費と金型だけで2000万円程度かかっています。
すでに会社勤めは辞めていたので、資金が足りなくなると物件を売って、その売却費を開発費に当ててと、ずっと手金で回していました。1号機ができた後は、ネットを中心に「欲しい」という人が現れて、カメラ量販店での販売が決まり、なんとかメドがついたところで、初めて資金調達を実施しました。
——一番たいへんだったのは資金繰りですか。
もういろいろなんですけど(笑)、私自身鍵の専門家ではありませんでしたから、どういう鍵があって、どう着けられるのか、ということから勉強していかなければなりませんでした。
多分一般の方は鍵の部品の名称さえご存知ないと思うのですが、鍵を差し込む鍵穴の部分は「シリンダー」、ドアの室内側についている金具は「サムターン」と呼びます。さらに、ドア枠に止めている部品を「ラッチ」、かんぬきのような役割を果たすのが「デッドボルト」です。そうした名称から覚えつつ、さらに用途別、国別の仕様を理解していきました。
Ninjalockの開発を知って、ホテルの方が導入相談に来てくれたことがあるのですが、調べてみるとホテルの鍵にはつかないことがわかりました。なぜなら、Ninjalockは、デッドボルトで開け閉めしていますが、ホテルの鍵はラッチを使っています。そのためサムターンをNinjalockで開け閉めしても意味がありません
そういった鍵業界の知らないことは、ほかにもたくさんありました。Ninjalockの2号機では、角度が360度以上回りますが、1号機は90度までしか回りません。実は90度の回転で鍵の開け閉めができるのは日本と米国だけです。欧州は180度、中国やアジアは360度、720度と一回転から二回転しています。
これも海外の展示会に出展して初めてわかったことで、現地の代理店の方に教えてもらいました。そこからは海外の鍵の研究もしないと、ということで、海外サイトから数多くの鍵を取り寄せました。実物を見てみると、全然日本の鍵とは構造が違うなと。
こうした"後からわかったこと”は、ハードウェアではどうにもなりません。アプリでしたら、ソフトウェアアップデートで対応できますが、ハードはそうはいかない。そうした1号機の反省を生かして開発した2号機は、自信を持っておすすめできるスマートロックにできたと思っています。
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