世界的にホームシェアリング(民泊)のウエーブを巻き起こしたAirbnbが、新たなビジネスモデルによって地域活性化を目指している。10月4日に開催された「不動産テックカンファレンス2018~加速する業界変革~」では、『Airbnbによる新しい不動産活用』と題し、同社ホームシェアリング事業統括本部 執行役員 長田英知氏が登壇。空き不動産を活用してホームシェアすることで空き家問題の解決と、地域の交流人口増加による地域活性化につながるAirbnbの取り組みについて語った。
Airbnbは、創業者のブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏が大学卒業後に大きなイベントが開催された際、ホテルを予約できない来場者に対し短期的な宿と朝食を提供したことから始まる。その後もうひとりの創業者ネイサン・ブレチャージクが加わり、2008年サンフランシスコで設立。誰もがどこにでも居場所を感じることができる世界をつくることをミッションとしている企業である。大々的な宣伝をするでもなく主にクチコミで評判は広がり、現在は191以上の国、8万1000都市で、500万を超えるユニークな宿泊施設を予約でき、累計4億以上のゲストが利用している。
Airbnbというと民泊という印象が強いが、宿泊サービスのほか、レストランの予約なども行っている。基本的には、空き部屋、空き家を持つ人(ホスト)がスペースを提供し、宿泊場所を探す旅行者(ゲスト)がそれを検索・予約。ホストとゲストをオンライン上でマッチングするサービスだ。
シェアルームや個室、まるまる貸し切りの3つのサービスからスタートし、その後別荘などのバケーションホームやツリーハウスのようなユニークな物件、さらに最近はデザイナーズホテルなども多くなってきており、日本でも数千の施設が掲載されているという。また、出張での利用も多く、企業にとってはコストの削減につながり、利用者にとっては長期滞在時にキッチンや洗濯機が使えることで、利用価値が高い。
ほかにも東京タワーやレゴランド、水族館といったイベント系の宿泊も用意。さらに、すでに海外では展開中の「Airbnb Plus」サービスも、順次展開する予定だ。このサービスは、デザイン性の高さやアメニティの充実度など100項目ほどを評価し、クリアしたホストにのみ与える称号。この称号が得られれば、宿泊単価は上がり予約率のアップにつながるとしている。
民泊は知らない人を自宅に宿泊させるということで、安全安心のプラットフォームは重要だ。Airbnbとしては、まずホスト側もゲスト側も免許証などの公的な書類がないと登録できないようになっている。また予約の際は、お互いがなるべくコミュニケーションを取り、望んでいるゲストなのかの判断をした上で、ホスト側が受け入れるか否か決められる。利用したら相互評価をすることで、その評価をもとに判断できる仕組みも備わっているので、予約した人を必ず泊めなければならないということはない。
このゲストを受け入れるか否かの判断と、相互評価の仕組みは、通常のホテルや旅館にはないので、この点はAirbnbの強みだ。また、ゲストの支払いはクレジットカードがメインで、ホストへの支払いは銀行振込などを使用するので、現地での現金のやり取りは一切ないというのも煩わしさがなくメリットと言えよう。
2018年6月に住宅宿泊事業法が施行されたことにより、事前に都道府県知事へ届け出ることで、原則年間180日以内なら、住宅に人を宿泊させる事業を行なうことができるようになった。また、利用していない別荘や空き家なども、住宅宿泊管理事業者に委託することで、宿泊させることが可能となる。
日本での事例としては、阿波おどりの徳島市で、宿泊不足を補うため自宅の空き部屋を提供するホストを募り、37室に273人が宿泊が宿泊。また、Airbnbのデザインスタジオ「サマラ」が地域活性化の取り組みとして奈良県吉野町に吉野杉の家を共同で建設し、地域住民の協働によるおもてなしや歌手のライブを行ない、海外の人と交流したりしているという。
ほかにも、山陰インバウンド機構と農山漁村滞在の推進をサポート。空き家になっている場所を有効活用するなど受け入れるホストを開拓している。また、和空の「テラハク」サービスとの業務提携で、全国各地の宿泊できる寺社情報をAirbnbにも掲載。寺社には宿坊という仕組みはあるが、最近は檀家さんが減ってきているので、こういう取り組みに興味を持っているという。
こうしたさまざまな宿泊を提供してきているが、民泊が新しい不動産活用の可能性があると長田氏は語る。「シェアリングエコノミーという新しいライフスタイルが不動産活用を変えていくかもしれない。働き方と場所の関係は、従来だと住んでる場所と職場、遊び場がそれぞれ存在し、職場の割合が大きい。そこにワークライフバランスによってそれぞれのバランスが整い、さらにシェアという概念が入ってきたとき、IoTの高度化により住むだけの場に仕事も遊びも入り込んでくる。場所や時間にかかわらず、住・職・遊ができるようになる。異なる企業や組織が、こういった場をシェアしあうことで、組織や立場を超えたコラボレーションやイノベーションが生まれる。不動産的には、宿泊場所が会社の接待やホームパーティ、仕事の場、遊び場として利用されることになり、不動産の価値が変わってくる」。
住むという概念も変わるかもしれない。マンスリーや賃貸で2年契約というのは、30泊するのと730泊するのと何が違うのか。ノマドワーカーの中には住む場所がなく、Airbnbを利用して生活している人もいるという。ホームシェアによって、不動産活用の可能性が広がってくる。
ただ、ホームシェアとして導入するにはいくつかの課題もある。まず利用形態の違いだ。賃貸なら貸すだけで2年間お金が入ってくるのに対し、ホームシェアだと、生活環境の整備や光熱費はオーナーが負担し、清掃といった日々のオペレーションが発生する。こういうことは、既存の不動産ではやってこなかったため、なかなかできない。
ビジネスモデルの違いも課題の1つ。ホテル事業ならたくさんの部屋があり一元的に管理し効率化することで収益を上げている。一方ホームシェアは物件ごとにオーナーがいて、独自の事業形態を持ち、場所も離れている。それでいてチェックイン・チェックアウトがあるので、どう効率よく管理していくかが課題だ。
こうしたホームシェアの課題を解決するには、さまざまな企業の余剰リソースを活用することにある。たとえば、家電メーカーと連携して家電のリースをお願いしたり、コンビニを活用して鍵の受け渡しをしたり、コールセンターは損保の余剰人員に依頼、ホテルなどで清掃業を行なっている業者と連携してチェックインや清掃を行なうなど、複数の余剰を使い倒していくことで新たな不動産活用のあり方になりうる。
そこでAirbnbでは、公式パートナーによる提供機能として「エアトリステイ ワンストップサービス」を用意。住宅宿泊事業を開始するに当たり発生する煩雑なオペレーション事項を網羅し、ホームシェアをサポートする。
「今年がホームシェア元年。多くの空き家を抱えている人にとって、インバウンドの旅行者をマッチングさせることで、地域の活性化につながり、日本に根付いたホームシェアサービスが提供できれば」と長田氏は締めくくった。
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