米Kinestral Technologies(以下、キネストラル)は10月4日、独自技術によるスマート調光ガラス「ヘイリオ」の大規模生産工場を台湾の苗栗県に完成させ、本格稼働を開始した。また、それに合わせて工場設備とヘイリオが設置されたデモ用スタジオを報道陣に公開した。
同工場では最大で3.0×1.5メートルサイズの調光ガラスを製造可能で、年間生産キャパシティは最大40万平方メートル。従来型の調光ガラスと比べて透明度が高く、暗くした際にも青みがかる現象が抑えられ、透明から暗色まで最短3分以内で高速に切り替わるのが特徴としている。アマゾンのAIアシスタント「Alexa」にも対応する。
キネストラルは米カリフォルニア州ヘイワードに本拠を置く2010年設立のスタートアップ企業。新たな生産工場は、もともとスマートフォンのディスプレイガラスなどを製造していた台湾企業GTOC(G-TECH Optoelectronics Corporation)の所有で、既存の建物と一部の設備を生かす形でリニューアルし、ヘイリオの生産に適した調光ガラス専用工場とした。
キネストラルは本社所在地にも生産・研究設備を所有しているが、そこで製造可能なのは最大でも0.8×1.3メートルサイズまで。今回の新工場の稼働により多様なサイズ・形状の窓ガラスに対応できるようになり、生産規模も大幅に拡大する。使用するガラス板は日本の旭硝子が提供。日本国内における販売は、キネストラルと旭硝子の合弁会社であるHalio Internationalが担当しており、中央区京橋にある旭硝子のショールーム「AGC Studio」でもヘイリオのデモを体験できる。
全世界では10月現在20カ所の施設に導入済みで、日本の各種認証取得のための手続きが完了する2019年初頭以降、日本国内の施設でもヘイリオが逐次採用される見込み。ソフトバンクグループの投資ファンドであるソフトバンク・ビジョン・ファンドが900億円以上を投資した建設会社カテラもヘイリオの採用を決定している。
他社の従来型の調光ガラスは、透明にした際に黄色味がかったり、暗くしても青味がかったりするなど、通常の窓ガラスのような明瞭で自然な見栄えが得られないものだった。また、調光時には周縁部が先行して暗くなっていくように見え、しかも透明から暗色まで切り替わるのに数十分以上かかるのが一般的だった。
ヘイリオでは独自のレーザー加工、コーティング技術などにより、こうした変色や切り替え時の問題を克服。透明度の高い状態から濃いグレーに、全体が均一に変化しながら、高速に切り替えられるようにした。電力は調光時のみ必要で、調光後の色合いの維持には電力が不要という省電力設計も特徴。現在導入済みの施設では透明から最大濃度までの切り替えに5分ほどかかっているが、アルゴリズムの最適化などで2018年内には3分以内で切り替わるようになるとしている。
主な用途は外壁の窓、天窓、室内パーティションなど。専用の制御装置、スイッチ類と組み合わせて調光を操作する。建物の既存の無線LANなどと連携して専用スマートフォンアプリから操作できるほか、AIアシスタントAlexaに対応し、スマートスピーカ「Amazon Echo」シリーズなどを介して、音声操作が可能というスマートホーム向けの機能ももつ。独自のクラウドシステムを介して調光する仕組みで、時間帯に応じた調光レベルの自動変更機能や、利用者の日々の調光操作を学習して常に最適な調光状態を保つ機能など、インテリジェントな自動調光も可能にしている。
窓ガラスに使用した場合、太陽光の取り入れ方をヘイリオ単体でコントロールできるようになるため、インテリアデザインに影響するカーテンやブラインド、外壁の目隠しルーバーが不要となり、室内空調などにおけるエネルギー効率の向上も期待できる。室内パーティションに用いた場合は、シチュエーションに応じて調光できるため、開放的な空間設計と会議室のプライバシー保護を両立できるといったメリットがある。
工場の本格稼働を記念する式典で、同社CEOのS.B. チャー氏は、適切な立地と技術をもつ工場の選定に2年かけたことを明かした。そうした中で台湾の苗栗県の工場を選んだ理由として「人」を真っ先に挙げ、工場の所有者であるGTOCの会長および創業者との出会いがあったこと、台湾に「製造者としてのたぐいまれなる歴史がある」こと、それによりエンジニアリングのノウハウをもつ人が集まっていること、さらに台湾のインフラ、サプライチェーンが強固であることなど複数の要因が鍵になったとした。
また、同社マーケティング責任者のクレイグ・ヘンリックセン氏は、ビルの外装の歴史をたどりつつ、時代とともに徐々に外壁に使われるガラスの割合が増え、近年は太陽光を室内に取り入れることの重要性がますます高まっていると説明。「スマートガラスの市場は、アナリストによれば、すでにある北米の商業ビルだけでも670億ドル規模に達している」と述べ、「ボーイング 787に調光ガラスが使われているように、ビルの窓ガラスだけでなく航空機や自動車など、われわれが狙う市場は非常に巨大」と意気込みを見せた。
性能向上に向けた取り組みは今後も続けていく、とS.B. チャー氏。「われわれにはデータがある。利用者から得られるヘイリオの稼働状況を分析、学習しており、より洗練された自動調光が可能になる。今はまだスタート地点に立ったばかり。これからも機能は増え続け、クラウドシステムによって窓ガラスが自然にアップグレードしていくだろう」。
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