孫社長と豊田社長が手を組んだ理由--「ドアを開くと必ず孫さんが前にいた」 - (page 2)

トヨタは「車を作る会社から、モビリティ企業」にチェンジした

 続いて登壇した、トヨタ自動車代表取締役社長兼執行役員社長の豊田章男氏は、「なぜ、ソフトバンクとトヨタなのかと疑問を持った方がたくさんいたでしょう」と話を振り、「自動車業界は100年に一度と言われている大変革の時代を迎えている。それを起こしているのはCASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)という技術。競争相手もルールも大きく変化している」と現状を説明。また、「トヨタは車を作る会社から、モビリティに関わるあらゆるサービスを展開する会社にチェンジした」とCESでの表明を引用し、「未来のモビリティを創造するには仲間という戦略が必要」と、ソフトバンクとの提携につないだ。

 トヨタでは、「ホーム&アウェイ」戦略から、DENSOやアイシンなどトヨタグループ内の事業を一度見直し、各社の強みを出した新たな“ホーム”の会社を設立。一方で、スバル、マツダ、スズキなどとの“アウェイ”のアライアンスを強化し、資本規模の拡大を目的とせず、開発・生産・販売網などお互いをリスペクトし、競争力強化につなげるという。さらに、第三の柱として、モビリティサービスを提供する新しい仲間として、Uber、DiDi、Getaroundに出資。主要ライドシェアの筆頭株主であり、NVIDIAやArm、車載カメラのLight、自動車マップなど数多くのモビリティ企業に出資するソフトバンクとの提携が第三の柱で重要な鍵を握るという。

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「ホーム&アウェイ」戦略
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国内自動車メーカーとEVに向けた新会社を設立

 なお、豊田氏と孫氏が初めて出会ったのは20年前。決して、円満な出会い方ではなかったようだ。当時、トヨタで課長職に就任し「GAZOO.com」の立ち上げや中古車のオンライン商談をスタートさせていた豊田氏は、ある日、孫氏が米国のネットディーラーをトヨタの経営層に持ちかけていることを知ったという。オンライン商談を新車にも展開しようとしていた豊田氏にとって「ありえない話」だったようで、孫氏のところに提案を断りに行った経緯がある。

 豊田氏は、「若気の至りとはいえ当時断りにいった相手。20年経っていくら若手が中心とはいえ、どうかなと思っていた。しかし、お会いするといつもの笑顔で優しく迎えていただいた」とする。また、孫氏は提案を断られたことについて、「がっくりはした。やっぱり駄目かと思った」と落胆しつつも、「まだ始まったばかりのソフトバンクだったので、大きな岩の前で仰ぎ見るような感じだった。でも、悪い感じはせず、いつか何かしらの形で組めるという予感はあった」とする。そのため、提携の検討を知ったときには、20年前の出来事も含めて驚いたという。

 同氏は、「車メーカーだったトヨタでは提携できなかったが、モビリティカンパニーを見据えた20年後には必要不可欠な存在になっていた。(孫氏には)未来の種を見極める先見性がある」と、豊田氏はソフトバンクを評価。また、トヨタの強みとして、「トヨタ生産方式などの現場の力がある。やりたいことをリアルで実現させる力であり、もっと良いものに進化させる力でもある」とし、ディーラーネットワークなど「リアルの世界で築き上げたお客様との信頼関係がある。それに裏打ちされたネットワークこそが、新しいモビリティサービスを展開する上でのアドバンテージになる」とし、「仲間を巻き込み、まだ見ぬ未来のモビリティサービスを提供するためのものである」と今回の提携について語った。

「ドアを開くと必ず孫さんが前にいた」

 発表会では、孫氏と豊田氏の対談も実施された。今回の提携について孫氏は「そういう時代が来た」と含み、「豊田社長自ら、製造メーカーではなくモビリティサービスの会社になると宣言した。これから新しい世界を切り開いていこうとしている」と評価。ソフトバンク自身も、「パソコンからインターネットを経て、モバイルの会社になった。DiDiやGrabに投資すると『モバイルの会社がなぜ自動車の会社に出資するのか』と言われた」という。しかし、モビリティサービスを展開する会社に次々と出資することで、AIとモビリティの両面を突き詰めることができ、両者が引き合ったとする。

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発表会では対談を実施。MCは、フリーアナウンサーの小谷真生子氏

 AIについて孫氏は、「大きな大きな波のうねり。インターネットの世界が大きなうねりとしてこの20年間台頭している。世界の時価総額TOP10のうち、7社がネット企業」と指摘。しかし、GoogleやアマゾンもAIには取り組んでいるものの、AI専業の企業はTOP10には入っていないとし「AIの申し子として生まれてきた会社は10〜20年後、世界を動かしていると思う。時代の転換に合わせて、一緒に仲間づくりをしている」と述べ、「これだけ世界の大手の王者中の王者が気軽に心を開いて、一緒に新しいことをやっていこうと我々に声をかけてもらえること自体が変革者だと思う」と豊田氏を評価した。

 豊田氏は、「年間125万人が自動車事故で亡くなっているのが、便利なはずのモビリティの現状。そこをゼロにしたいという気持ちを、自動車業界だけでなく孫さんのグループも思っていた。そこが嬉しかった」という。自動運転を実現するためには、「世界でどれだけのデータを取れるかが非常に重要。そうしたとき、MaaS事業者は現に走らせている車が多い。未来のモビリティを作るネタを日々送ってくれている」とMaaS事業者を評価。「自動運転をやっていこうと思っていた会社のドアを開けたら、必ず孫さんが前に座っていた。こういうところから“時が来た”のだと思う」と、孫氏の先見性について語った。

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