「企業はその人の姿勢やマインドを評価して採用しているのに、従業員がマインドを最大限に発揮できる環境を与えていない」ーーそう指摘するのは、Dropbox共同創業者 兼 最高経営責任者(CEO)のDrew Houston氏だ。同氏は9月28日まで米サンフランシスコで開催されたSalesforce.comのイベント「Dreamforce 2018」に登場し、Salesforceの共同創業者 兼 共同CEOであるMarc Benioff氏と対談した。
日本で流行語となっている“働き方改革”に対して、ITは大きく貢献できる。Dropboxも、働き方改革を支援するサービスと言えるだろう。クラウドに写真やドキュメントを保存していつでもアクセスして作業したり、他人と共有したりできるからだ。“クラウドに保存していつでも・どこでも”というアイデアは、2007年のHouston氏自身の体験から生まれたという。
当時、Houston氏はチャイナタウンバスでボストンからニューヨークに住む友人を訪ねるところだった。そして、バスの中で作業をしようと思っていたが、作業ファイルを入れていたUSBドライブを忘れてしまったのだという。「iPhoneも車内Wi-Fiもない時代。本当に何もできなかった。こんなことは2度と嫌だと強く思った」と振り返る。
このバス内での不満をきっかけにDropboxを着想し、その後コンピュータサイエンスをともに勉強するArash Ferdowsi氏と出会い、それを具現化していった。西海岸にやってくると、「まだ引越しの荷を解かないうちに」投資してくれるVCに出会えた。そして2018年には、長く待たれていたIPOを実現した。
Houston氏に対し、「会うたびに“いつIPOするの?”と聞いていたけど、もうしなくていいね」とBenioff氏。代わりに「10年後に達成したいことは?」と長期的なビジョンを尋ねた。
「創業時に感じていた“USBドライブを持ち歩かなければ仕事ができない”という問題は、11年が経過してほとんど解決できている。Dropboxは企業でも利用されている」とHouston氏。現在取り組んでいるコンセプトを「enlightened way of working」(enlightenedとは“啓発された”などの意味)という言葉で表現した。
「企業が大きくなり、CEOとしての自分の仕事は、メール、ミーティング、メール、電話……。“トレッドミル”の速度が速くなっている。以前より忙しくなったのに、生産性は上がっていない。創造的な作業がまったくできない」と自身の状況を話した後、従業員についても「彼らのマインドに惚れ込んで雇っても、考える空間を与えていない」と話す。「物理的な環境が人を心地よくしたり、幸せにしたりすることは研究から分かっている。仮想環境でも同じだ」とHouston氏。オフィスでの仕事では画面に向かうことが増えているが「新しいツールや技術はたくさんあるのに、いまだにメールと生産性ソフトウェアを使っている。まったく意味をなしていない」と続けた。
必要なのは、考え抜かれて設計された環境、静かで作業にフォーカスできる環境だ。Houston氏は新コンセプトで、これをDropbpxという仮想環境で実現することを試みる。「10年後、仕事という点で皆がもっとハッピーに、満足している状態になっていたらいいなと思う。今を振り返って、“あの頃はひどかったね”と言えるようにしたい」と語る。
具体的なことは明かしていないが、心理学や神経科学でわかっている集中できる環境を実際のツールなどに結びつける、とHouston氏は説明する。機械学習などを使って、必要な時に情報を得られ、集中したい時には通知がオフになり邪魔されない環境を実現したいという。「“AI操縦士”のような人が、たくさんの情報の中からこれが最も大切と教えてくれたり、画面をオンにすると重要なものだけが表示されたりするような環境」という。「Dropboxは単にストレージの場所から、人が集まって仕事をする場所になった。(次は)アイデアが現実のものになる場所、ここに大きなチャンスがある」(Houston氏)。
なお、Benioff氏は「私はオフィスは持たないよ」と言ったが、Salesforceはサンフランシスコの中心部に61階建てのSalesforceタワーを完成させたところだ。Dropboxも、そこからそう遠くないミッションベイ地区に大規模な本社を構える計画を発表しており、従業員がフォーカスできる環境の実現を目指すとしている。
創業11年でIPOを実現したDropbox。創業時は20代だったHouston氏は35歳になった。企業規模が拡大したこともあり、先に企業のミッションを新たに名文化し、慈善組織のDropbox Foundationも立ち上げたという。
「10年前のCEOとして駆け出しの頃の自分にアドバイスするとしたら?」とBenioff氏が尋ねると、Houston氏は「人はCEOとして生まれるのではなく、CEOになる」と答えた。
「CEOになる」ための学習曲線を維持することが重要だ、ということを10年前の自分にアドバイスしたいとHouston氏は話す。「大きなチームを率いたり、人前で話をしたりするのは怖いし、自分にはできないと思っていた。だが、ほとんどのことはトレーニングできる。最高にはなれなくても、かなりのレベルまでは到達できる」(Houston氏)。会社の成長に合わせてCEOとして成長することが大切という。
ちなみにHouston氏はバンドマンでもあり、「会うといつもPearl JamのTシャツを着ていた」とBenioff氏から指摘されるほどのPearl Jamファンだ(実際、2014年にはPearl Jamより投資も受けている)。1990年代ロックをカバーするバンドAngry Flannelは、Craigslistで出会った仲間と10年前にスタートし、現在も活動を続けているそうだ。
音楽が自身に与える影響については、「創造的なプロセスが好きだし、数人の個性ある人たちがまとまって何かをやるというプロセスもいい」と話した。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス