TSUTAYAが、ツイートをAIで分析しておすすめのエンタメ作品をピックアップするサービス「TSUTAYA AI」の映画版の提供を開始した。タイトルや俳優名など映画に関連するキーワードが入っていなくても、ツイート内容から見たいと思われる映画を類推し、20作品をレコメンドする。
開発したのは、コミュニケーションデザイナーの阿部望氏とデータサイエンティストの内田尚氏。現在、TSUTAYA UX・MDカンパニー サービス基盤推進ユニットAI研究開発チームに所属しているが、以前はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が主催するベンチャープログラム「T-VENTURE PROGRAM 2016(TVP 2016)」にベンチャー企業として参加。最終審査まで残った8社のうちの1つだった。
「TVP 2016当時は、まだ会社としても立ち上がっていないような状態。AIで映画をレコメンドするエンジンを『#AGENT_TRAVIS』というサービスとして応募した。入賞には至らなかったが、当時から親身に相談に乗ってくれ、その後TSUTAYAに入社する形で、今回のサービスにこぎつけた」と阿部氏は開発までの経緯を振り返る。
TVP 2016で2人のメンターを務めた大畠崇央氏(TSUTAYA UX・MDカンパニー サービス基盤推進ユニット ユニット長兼AI研究開発チームリーダー)がチームリーダーとして参加。TSUTAYA AIを取りまとめた。
TSUTAYA AIは、直近のツイート100件を分析して、おすすめ映画をレコメンドする。ウェブサイトにアカウント名を打ち込むことで使用ができ、解析にかかる時間は8秒程度。解析が終わると20本の映画作品を紹介する。
Tカードの履歴とは連携しておらず、純粋にツイート内容から映画作品を導き出す。ツイート内容を自然言語処理することで、趣味嗜好や興味関心、どんな生活を送っているのかなどを読み取り、映画をピックアップする。認識できる言語数は72万語で、これは広辞苑の24万語を大きく上回る数字だ。
「TSUTAYAというと、データベースという強みがあり、レンタル、購入履歴によるレコメンドを行ってきているが、今回はあえてTカードデータを使わなかった。より多くの人に使ってもらうためにデータ連携をせず、ツイート内容のみという形をとった」(阿部氏)という。
直近100件のツイート内容を分析するが「それ以下の件数でもおすすめ映画をピックアップすることは可能。100件と限定したのは『今のあなたに合った作品をおすすめする』ため」(内田氏)だという。
2月に期間限定でプロトタイプを公開し、約15万人が利用した実績も持つ。20〜30代を中心に利用され、おすすめされた映画タイトルをTwitter上で公開することで広まり、300万インプレッションを稼いだ。
ピックアップする映画の本数はTVP 2016の時は10本としていたが、視聴済みの作品が含まれることもあり、20本へと増やした。「30本まで増やすと、自分だけのおすすめ感が薄くなってしまう。20本は利用者にとって新しい発見があり、おすすめ感が得られる本数」(阿部氏)と、設定理由を話す。
TSUTAYA AIサービス開始の背景には、旧作レンタル数増加への取り組みがある。TSUTAYAでは映像作品だけでも10万作品以上のタイトルを持つが、レンタルは新作が中心。旧作はユーザーから手に取られにくいのが現状だ。TSUTAYAでは月額定額制で旧作が借り放題の「TSUTAYAプレミアム」サービスを用意するほか、ジャケットを隠し店頭に置く「NOTジャケ借」など、サービスとユニークな手法を組み合わせて、旧作レンタルを推進している。
TSUTAYA AIも、ユーザーに合ったおすすめ作品をピックアップすることで、旧作に触れる機会を増やすことが狙い。阿部氏は「店頭にある10万を超えるタイトルの中から、お客様のための最高の1本をおすすめする。このサービスによって、旧作はその人にとっての名作になる」と意気込む。
T-VENTURE PROGRAMは、2014年に開始。現在、第5期のエントリーを受け付けている。受賞企業とCCCグループは、サービス連携や出資などのコラボレーションを実施しているが、TSUTAYAに入社する形をとったのは今回が初めて。
大畠氏は「2人はベンチャーとして取り組んでいれば、もっとスピードをあげてできたかもしれないが、TSUTAYAブランドの下で提供することで、社内の映画の専門家などの多角的な意見も取り込めた。初めての経験だけに2人には苦労もかけたが、そのお陰でデータの安全性などを確保しながらサービスをスタートできる」と、ベンチャーとしてスタートした2人が企業の中で開発を進めた経緯を話す。
内田氏は「今まで2人で進めてきて、大きな企業の中でうまく進められるか不安に感じる部分もあった。しかし社内のデータサイエンティストに協力してもらうなど、ほかの人の協力も得ることで、ここまでできたと思っている」と社内の協力あっての開発だったと振り返る。
TSUTAYA店頭では、TSUTAYA AIがTwitterアカウントを持つ著名人(堀江貴文氏、きゃりーぱみゅぱみゅさん、池田エライザさんほか)へのレコメンドした映画タイトルを用い、AIによる売り場作りを行うなどの連動した施策も実施。TSUTAYA AIは映画だけでなく、ドラマや書籍、コミックなど、TSUTAYAが取り扱う商品と相性が良いため、今後もさまざまなエンタメ作品での展開を予定している。
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