一方、MSFは独自の遠隔医療ネットワークを利用している。このネットワーク自体は、専門医と遠隔地の医療従事者をつなぐために特別に設計された「Collegium Telemedicus」システムをベースとしている。現場にいる医師や看護師が患者の医療情報をMSFのネットワークにアップロードすると、世界各地に配備された9名のコーディネーターの1人がその情報を特定の専門医に送信する。専門医はその患者についてコメントしたり、詳細な情報を求めたり、追加の検査を要請したりすることができる。専門医がほかの医師に相談したければ、コーディネーターに頼んで、その医師を追加してもらうことが可能だ。
ニューヨーク州ブルックリンにあるメイモナイズメディカルセンターの小児外科医であるJohn Lawrence氏は、「(遠隔地にいる医師たちは)診療場所の制約のせいで、専門医にも使い慣れたさまざまな技術にもアクセスすることができない」と話す。Lawrence氏は、MSFのためにコンサルティングを担当する、世界各地で300人近くいる医師の1人である。
2017年7月、Lawrence氏はレバノン東部の病院から、シリアに住む5歳の少年のCTスキャン画像を受け取った。この少年は1歳のときに骨盤腫瘍の摘出手術を受けており、病院の担当者は腫瘍が再発したのではないかと懸念していた。
その懸念は的中した。
Lawrence氏は新しい手術を受けさせるために、その少年をベイルートにある主要小児科病院の1つに移すことを勧めた。同氏によると、その病院の医療は米国に匹敵する水準だという。
小児科と内科を専門とするAdi Nadimpalli医師は、MSFが運営する病院の現場で働くことがよくある。南スーダンの病院もその1つだ。同国では、4年にわたる激しい内戦によって、300万人以上が行き場を失い、多くの人が標準以下の生活環境で暮らすことを余儀なくされている。診療所や病院も破壊された。
2017年、息切れを起こした妊娠6カ月の女性が、Nadimpalli氏の勤務する病院へやってきた。呼吸困難の原因を探るため、病院は心臓と肺の超音波画像を撮影し、米国の心臓専門医に転送した。診断の結果はリウマチ性心疾患だった。この女性がもう一度妊娠した場合、命を失う可能性があった。
それは、彼女が聞きたくない(あるいは信じたくない)診断だった。地元の医師たちが連絡をとったオーストラリアの産科医が説得したことで、彼女は卵管結さつ術を受けることを承諾した。女性が多くの子供を産むことを期待される文化において、それは簡単に成し遂げられることではない。
「説得力のある、しっかりとした診断体制があったので、われわれは彼女とその夫、父親を説得することができた」(Nadimpalli氏)
MSFはそのシンプルな遠隔医療ネットワークを使って、医療に関する格差だけでなく、文化的な違いも乗り越えてきた。
暴力と経済的苦難により多くの人が行き場を失っている現代の世界において、遠隔医療ネットワークの重要性はさらに増すだろう。
テキサス州ヒューストンにあるベイラー医科大学のベイラー・グローバル・イノベーション・センターでディレクターを務めるSharmila Anandasabapathy医師は、「必要は発明の母である」と話す。
「ほかに選択肢のない環境では、最短ルートに頼らざるを得ないような状況になる。多くの場合、最も好都合で効果的なルートとなるのが遠隔医療だ」(Anandasabapathy氏)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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