紛争地帯で命を救う遠隔医療--「WhatsApp」を医師間で活用

Abrar Al-Heeti (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2018年06月29日 07時30分

 2017年夏、米国に住む医師のMohamad Al-Hosni氏は、シリアにいる医師たちから「WhatsApp」でメッセージを受け取った。その医師たちは、34週で生まれた未熟児がうまく呼吸できずに苦しんでいる原因を突き止められずにいた。米ミズーリ州セントルイス小児病院の新生児科医であるAl-Hosni氏は、米国にいるほかの約20人の医師と共に、胸部X線写真をグループチャットで受信した。

 米国の医師たちは、未熟児の腸が横隔膜に開いた穴を通って胸部に移動しており、肺の正常な発達を妨げていることに気づいた。そして、その症状を治療できる専門医がいるトルコの大きな病院に未熟児を移すことにしたのである。

 Al-Hosni氏は、非営利団体のシリア系米国人医療協会(SAMS)でボランティア活動を行っている、60人近くに上る医師の1人である。メンバーの医師たちはWhatsAppを使って、遠く離れた場所にいる患者の治療を助ける。戦争によって荒廃したシリアのイドリブ県にいる医療スタッフは、週に数回、WhatsAppを使って、Al-Hosni氏に電話したり、テキストを送ったり、助けが必要な患者の写真や動画を送信したりする。

 「これで命が救われることもある。集中治療の観点から見ると特にそうだ。数分が赤ん坊の命を大きく左右することもある」(Al-Hosni氏)

 シリア政策研究センター(SCPR)の推計によると、2011年にシリア内戦が始まってから、47万人以上が死亡し、190万人が負傷したという。負傷者の治療は困難なだけでなく危険を伴う。人権のための医師団によれば、900人近くの医療従事者が死亡したという。シリア政府と対立組織、また過激派組織ISISが、医療用品や機器、燃料へのアクセスを遮断している。病院と診療所は頻繁に空爆の標的になっており、医師たちは、電力を発電機に頼る人口過密の商業ビルで診療を余儀なくされている。専門医は多くの場合、紹介の必要な病院にしかいない。

 そこで、遠隔医療が極めて重要な役割を果たす。遠隔医療はインターネットやメッセージングアプリなどの通信技術を利用して、現場の医師と遠く離れた場所の専門医をつなぐ。新しいものでも先進的なものでもないが、外部の専門知識を利用できるので、遠隔地や危険な地域に医療を提供する世界の多くのボランティア組織にとって、重要なツールとなっている。そうした組織には、SAMSや国境なき医師団(MSF)などがある。

国境を越える

 SAMSはシリアの医療スタッフを外科手術や内科などの分野で訓練し、ボランティアや医療機器を必要とされる地域に送っている。

 バーチャルな支援が必要なとき、シリア国内の医療スタッフは、信頼性の高さからWhatsAppを標準のメッセージングプラットフォームとして使用する、とAl-Hosni氏は話す。このWhatsAppグループは通常、放射線科や感染症など、必要とされる可能性があるさまざまな専門領域を担当する約20人の米国人医師で構成される。これらの専門医が患者の情報のほか、X線やCTスキャンなどの画像も確認して、最良の治療法を決定する。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]