コネチカット州にある古びた一室に、ハーリー(Harley)は駆け込んだ。証拠を探しているのだ。
部屋の中には、彼女の気を散らしそうなものが随所にある。天井からぶら下がっている電線。湾曲して壁から反り返った木製パネル。色あせた黄色のキャビネットは、まるで誰かが蹴飛ばしたかのように凹んでいる。
ニューヨーク州ウェストチェスター郡警察のBrett Hochron刑事は、「さ、仕事の準備はできてる?」と相棒に呼びかけた。
ハーリーは即座にテーブルの上にあったライターを見つけて、口にくわえた。そして涎(よだれ)を流し始めた。寒い2月の午後だが、ハーリーは集中している。テーブルの横にあるテニスボールが入ったバスケットには見向きもしない。
それはハーリーが「お利口さん」だからにほかならない。
彼女はエリートK-9(警察犬)訓練校の卒業生だ。そこでは、携帯電話、ハードドライブ、親指の先よりも小さいmicroSDカードなどの電子機器を嗅ぎ出せるように、犬を訓練する。
コネチカット州警察のK-9インストラクターであるKerry Halligan氏によると、電子記録媒体探知(ESD)犬のテストに合格する犬は、50頭のうちわずか1頭である。それは、電子製品特有の化学物質を探知するのは、麻薬、爆発物、燃焼促進剤、人間を嗅ぎ分けるより、はるかに困難であるからだと、彼女は説明する。
しかし、鼻先から口にかけたマズルが長いハーリーのようなラブラドールレトリーバーは、嗅覚に訴えるごく微量のヒントも嗅ぎ出せる。テクノロジ分野で活躍するこれらの探知犬は、法の執行機関がハードドライブに保存されている児童ポルノ、こっそりと隠された携帯電話、ハードドライブに記録されたホワイトカラー犯罪の証拠品、SIMカードに保存された通話履歴などを見つけ出す上で、大きな助けとなっている。
ESD探知犬が最も注目を集めたのは、2015年に発生した事件だろう。ベア(Bear)という名のラブラドールレトリーバーが、ファーストフードチェーンSubwayの元スポークスマンであるJared Fogle被告の自宅で、児童ポルノ画像が保存されたフラッシュドライブを発見した。地区検事は、この証拠がFogle被告の有罪判決で決定的な役割を果たしたと述べている。
Hochron刑事によると、現代の犯罪の手がかりになるのは、「もはや血がついたナイフではない。誰かが燃やして処分しようとしたノートPCの検索履歴が決め手になる」。
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