KDDIとトヨタら、IoTや自動車データを防災に活用へ--2019年にシステム提供

 KDDIとトヨタ自動車、地質調査会社の応用地質の3社は4月24日、IoTとビッグデータ分析技術を活用した「国・自治体向け災害情報支援システム」の商用化に向けた、実証実験の実施に合意したことを発表。同日に実施された3社の共同会見で、具体的なシステムの内容と、各社が担う役割を説明した。

 このシステムは、IoTとスマートフォンや自動車から取得したビッグデータを活用して防災に役立てるというもの。KDDIがスマートフォンの位置情報から取得した人口動態データと、トヨタ自動車のコネクテッドカーから取得したプローブデータ、そして応用地質が提供する雨量計や水位計などの防災用IoTセンサから取得したデータの3つを組み合わせて分析することで、リアルタイムな防災対策やインフラ監視が実現できるという。


KDDIとトヨタ自動車、応用地質の3社が共同で実証実験を進める災害対策情報支援システムの概要。スマートフォンと自動車から取得したデータを活用するのが大きな特徴だ

 3社が共同でシステムを開発するに至った背景について、KDDIのビジネスIoT企画部長である原田圭悟氏は、災害対策に関して国や自治体が抱えるいくつかの問題を挙げた。最近の自然災害は、地球温暖化の影響によって集中豪雨などの激甚化が深刻になっているが、道路や橋などのインフラは老朽化が進んでいる。高齢者の増加にともない避難行動を支援する人も増えているという。


KDDIのビジネスIoT企画部長である原田氏

 しかも、市町村の土木費用は22年間で約4.8億円減少し、土木職員数も約27%減っているとのこと。自治体は、災害にかけることのできる予算と人員が減少の一途をたどっているにもかかわらず、激甚化する災害への対策が求められるという、非常に厳しい状況となっているのだそうだ。そこで、爆発的な増加が予想されているIoTデバイスを活用して災害対策をできないかと考えた結果、人と車のデータを活用した、災害対策情報支援システムを構築するに至ったという。

 原田氏は、KDDIが持つ人口動態データの活用について、熊本地震を例にして説明。地震発生前は繁華街や駅に人が集まっていたが、発生後は繁華街から人が減り、避難場所に人が集まっている様子を見ることができたという。また人口動態データからは、混雑している避難所と、空きがある避難所の違いも見て取ることができたそうで、これらのデータを活用することで、災害時により適切な避難場所を案内したり、物資を効率よく搬送できたりするなど、役立てられる余地が大きいと話す。


KDDIのデータを用いた、熊本地震の際の人口動態変化からは、人々が繁華街から特定の避難所に移動している様子や、空きのある避難所が存在したことも確認できたという

 またKDDIは同日に、KDDI総合研究所と共同で、この人口動態データを用いて人の動きを予測する「人口動態分布/予測」技術を開発したことを発表した。KDDIの人口動態データは15分おきと、細かな時間ごとに取得していることから、人の流れをリアルタイムに予測できるそうで、「災害対策に向いているデータではないか」と原田氏はその活用に期待を寄せた。

 応用地質の代表取締役社長である成田賢氏は、同社の災害対策に向けた取り組みと、IoTのセンサとデータを組み合わせた災害対策について説明した。応用地質は、防災・減災に関する研究やシステム開発などに力を入れている企業だが、日本では自然災害の数が非常に多く、大規模災害が発生する度に情報収集や情報伝達などに関して、多くの課題が挙がってきたという。


応用地質の代表取締役社長である成田氏

 だが原田氏も触れた通り、自治体の予算は減る一方であるにもかかわらず、災害は激甚化しており、やるべきことは非常に多い。そこで今回の協業では、スマートフォンと車、そして同社が開発した防災用のIoTセンサを活用することで、最も大変な作業である広域での災害現象を捉え検証する方法、そして自治体に情報を伝達する手段、この2つを実証実験の中で確立していきたいと成田氏は話す。

 ちなみに、現在応用地質が用いているIoTセンサには、通信モジュールを搭載しているものも存在するが、現在のところ3Gのモジュールが用いられているとのこと。だが今回の実証実験では、より消費電力が少ないLTE-Mが用いられるという。


応用技研の防災IoTセンサ。左は落石危険個所などの傾きをモニタリングするもの、右は水圧から河川などの推移をモニタリングするもの。いずれも通信機能は搭載していないが、実証実験ではLTE-Mを搭載したセンサが用いられるそうだ

 トヨタ自動車のコネクティッド統括部 データ活用企画グループ長である田村誠氏は、同社が提供する「ビッグデータ交通情報サービス」について説明した。これは同社のコネクテッドカーに搭載されたテレマティクスサービスを通じて、車両の位置や速度などの情報を収集し、それを基に交通情報や統計データとしてビッグデータとして提供するというものだという。


トヨタ自動車のコネクティッド統括部 データ活用企画グループ長である田村氏

 このデータからは該当するエリア内での車の移動速度や、24時間以内に車が通行した道路の実績なども知ることができるため、これを活用することで災害時の道路状況も把握できるという。田村氏は4年前に山梨県で発生した豪雪の事例を挙げ、雪が解けていくとともに、車が通行できる道が徐々に拡大していく様子が確認できたとのことで、こうした情報が災害時の道路復旧状況の把握に役立つと説明した。


プローブデータを活用した大雪降雪時の道路状況。気温が0度を切り路面が凍結すると自動車のABSの作動が急増する様子が確認でき、凍結防止剤の散布タイミングを見極めるのに役立てられるという

 災害情報支援システムの商用化は2019年を予定しており、提供の主体はKDDIになるとのこと。また商用化の際には多くの自治体に導入してもらえるよう、料金は「年間で数万円から数十万円程度での提供を検討している」(原田氏)している。

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