日本マイクロソフトは4月16日、学生、スタートアップ企業、エンジニア、投資家などを対象としたイノベーション創造イベント「Microsoft Innovation Day 2018」を開催し、学生 IT コンテスト「Imagine Cup」の日本予選会や「Microsoft Innovation Award」の表彰式を行った。その合間に開かれたセッションでは、日本マイクロソフトの担当者が同社の最新テクノロジを活用した事例をプレゼンテーションした。
「Mixed Reality 〜常識を変えるテクノロジー〜」と題するセッションでは、日本マイクロソフトの千葉慎二氏が、同社が開発したヘッドマウント型端末「HoloLens」を使ったMixed Realityの研究事例や活用シーンのシミュレーションを披露した。
まず、千葉氏はAR(Augmented Reality:拡張現実)とMR(Mixed Reality:複合現実)の違いについて解説した。アプリを起動したスマートフォンを現実空間に向けるとさまざまな情報やバーチャルなキャラクターを観ることができるARは、現実空間に“拡張された情報”を提示する。これに対して、MRはARと同じように現実空間に“拡張された情報”を提示するが、ARが現実空間の物体などとは直接的な関係を持たずに人物の目の前に情報を提示するのに対して、MRは現実世界に仮想のものを組み込んだような世界を表現できるのだという。
これを、HoloLensを使うとどのように実現できるのか。千葉氏によると、たとえば現実の壁にホログラムを埋め込んでさまざまな表現をしたり、バイクのフレームに3Dで仮想のカウルを被せたり、空間に立体的な仮想の物体を表現して、HoloLensを使う複数の人で空間を共有しながらディスカッションしたりするといった体験が可能になるのだという。「HoloLensでは視覚だけでなく聴覚をも含めてMixed Realityを実現する」(千葉氏)。
では、このMRではどのような新たな体験を生み出すことが期待できるのか。千葉氏は「働き方、コミュニケーションの仕方を変え、発想の方向性を広げたりさらなるリアリティとの結びつきを生み出すことができる」と語り、同社の研究事例を紹介した。たとえば、働き方の改革では、HoloLensを装着した複数の社員が空間を超えてひとつのリアルな現場を共有し、コラボレーションワークを展開するというシミュレーションを紹介した。
一方、コミュニケーションの方法を変えるという点では、HoloLensを装着した医師が遠隔地にいる患者を目の前にバーチャルな像として出現させ、問診をしたり患者の運動機能を診察したりするという実証実験の様子を紹介し、「新しいコミュニケーションの形を実現することで、MRは遠隔地医療などにも活用できるのではないか」と提案した。
そして、HoloLensは大学の授業などにも導入されているそうで、千葉氏は「たとえば、物体を認識してバーチャルなタグをつける、物体の特性に応じてさまざまな音を表現する、そこにある物体をないものとして表現するDiminished Realityなど、HoloLensとAIを活用して学生の自由な発想でさまざまな試みが行われている」と語る。千葉氏は、今後HoloLensを活用して発想の幅を広げられるよう、さまざまな支援技術を実装していくとしている。また、同社の研究機関であるMicrosoft Researchでは、視覚、聴覚だけでなく触覚をも含めたMRの進化を研究しているという。
「Mixed Realityには多くの可能性がある。そのカギとなるのは、AIとビッグデータ。これらとの連携によってさらに多くのことが実現できるようになる」(千葉氏)。
続いて登壇した日本マイクロソフトの原綾香氏は「AI ~データで変革する機械学習~」と題した講演を行い、同社が展開する機械学習ソリューション「Azure Machine Learning」の活用事例を紹介した。
まず原氏は、AIを構成するさまざまな分析手法の違いについて整理した。基本的な知識だが、AIは統計分析によってデータを理解して数値予測やデータ分類をする「機械学習(Machine Learning)」、多層のニューラルネットワークによって膨大な量を分析して画像解析、音声解析、テキストが画像を生成する「深層学習(Deep Learning)」、そしてこの深層学習に自らが学習して試行錯誤しながらデータ分析する強化学習を組み合わせ、自立型ロボットや自動運転技術を実現する「深層強化学習」に分類される。「機械学習と深層学習、どちらの手法を用いるべきかを決めるのは、データの種類とデータの量。比較的少量の数値データならば機械学習を、画像や音声などデータ量の多いものは深層学習によって分析していく」(原氏)。
同社はそれぞれの分析手法に応じて「Azure Machine Learning」「Azure Cognitive Services」「Cognitive Toolkit」などのソリューションを提供しているという。原氏はこれらの中で、Azure Machine Learningを活用して実際に行われたプロジェクトについて紹介した。
このプロジェクトは、米国で環境保全や生態系調査などの技術を開発するスタートアップ企業Conservation MetricsがMicrosoftと共同で実施したもので、アラスカにある島で絶滅危惧種の野鳥の生態調査を行ったのだという。具体的には、肉眼での把握が難しい生体数をDeep Learningの物体認識技術を使って観測したのだそうだ。物体認識によって野鳥を識別し、個体数のカウントを可能にした。
こうした機械学習や深層学習の活用について、原氏は「機械学習における作業時間の80%はデータの前処理だ」と説明。その上で、同社で提供しているAzure Machine Learning Workbenchというツールを紹介し、AIを活用してデータラングリング(データの下ごしらえ処理)と実験の管理を効率化できる手法を提案した。たとえば、多くのデータを分類したい場合、入力したサンプルから分類ルールを推計して自動的に分類をしたり、多くのデータをグラフとして可視化し、不要なデータの抽出・排除などを容易にできるという。
「皆さんがゴミだと思っていたデータはお宝かもしれない。そうしたデータを機械学習に投入して活用すれば、新たなビジネスの可能性もあるのではないか。ぜひもう一度、自社のデータを見直してみてほしい。一方で、皆さんの時間はとても貴重だ。さまざまなツールを活用して効率的にデータを分析し、自由な時間を獲得してほしい」(原氏)。
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