「レディ・プレイヤー1」は、架空の仮想現実(VR)世界を舞台にしたSFアドベンチャー映画である。したがって、Steven Spielberg監督がこの映画の異世界を作り出した舞台裏で、実際にVRヘッドセットを装着していても不思議ではない。
Spielberg監督が率いる制作チームは、コンピュータが作り出した仮想環境として描かれる作中世界に足を踏み入れるために、VRを使った。昔ながらの映画撮影用大型スタジオの中を動くのと同じように、そこを歩き回るのだ。制作の裏側について詳しく知るために、レディ・プレイヤー1のプロダクションデザイナー、Adam Stockhausen氏に話を聞いた。映画に登場する2つの異なる世界をリアルに作り出した責任者である。
「2つの世界は同じ場所で始まるが、見る見るうちに分岐していく」。この2つの世界を支える制作プロセスについて、Stockhausen氏はそう語る。作品中の「現実」世界のシーンは、昔ながらの方法で撮影された。人間の俳優が、正真正銘、現実のセットで演技する。一方、主人公たちがデジタルの空想生活を過ごしている「オアシス」という仮想環境は、コンピュータで作り出した背景に、コンピュータで作り出したキャラクターたちを置くことによって生み出された。
プロダクションデザイナーを務めるStockhausen氏とそのチームは、ほとんどのプロジェクトと同じように、まずインスピレーションを得るために参考画像を集めるところから始め、次にアイデアとコンセプトアートをスケッチしていった。作中の現実世界に関しては、美術担当がそのスケッチから設計図を書き起こして、物理的なセットを作る。一方、オアシスで繰り広げられるシーンのスケッチは、Stockhausen氏が「バーチャルアート部門」と呼ぶ部署に送られる。この部署には、ビジュアルエフェクト制作会社のDigital DomainとIndustrial Light & Magic(ILM)も参加している。
オアシスのシーンの背景は、実際の撮影スタジオで作るのではなく、ILMが3Dのコンピュータ生成(CG)で作った。VRが制作過程に登場したのは、作中のCG環境を、スクリーンで見るよりもリアルに感じたいと制作チームが希望したときだった。Spielberg監督とStockhausen氏は、VRヘッドセットを装着してそれを実現し、本作の登場人物たちと同じように仮想環境に入り込んだ。
VRを利用することにより、両氏は、照明を調節したりカメラアングルを変えてみたりして、単にコンセプトアートを見るよりも没入感のある方法で、その環境が自分たちの意図に沿っているかを確かめることができた。「実際のセットにいるのと、ほとんど変わらなかった」とStockhausen氏は語っている。
さらに、VRが役立ったのは、制作チームが仮想環境を設計するときだけではなかった。物理的に作る予定のセットについても、デジタルの見本を生成できたからだ。Stockhausen氏は次のように説明する。「通常、巨大なセットを作る場合、全員の認識を一致させるためにモデルを作り、スケッチを描く。セットを建てる前に全員がその空間を理解できるように、できるだけのことをする」。そのため、例えば作中に登場する悪役Nolan Sorrentoのオフィスや、巨大企業Innovative Online Industries(IOI)の内部などのセットを実際に作るときも、その前に仮想のウォークスルーを作り上げることができた。
IOI内部の映像は、レディ・プレイヤー1のような最新の映画での、実際のセットとCG技術の関わり方を示す例となる。従来どおりの物理的なセットだが、撮影後、映像はデジタルで拡張され、元より大きく(そしてさらにクールに)見せている。実際のセットを作る前に、制作チームはVR版を作って、仕上がりをあらかじめ確認できる。
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