AIのペットと“雑談”できるハウスコムの「AI PET」、自然な会話に挑んだ開発の裏側 - (page 3)

人工知能とユーザーで口喧嘩が発生?

――ユーザーが話しかけなくてもAIが情報を話しかけてくれるというのは、どういう仕組みで行われるのでしょうか。

「AI PET」では。「ペットが呼んでいます」とAIが情報を話しかけてくれる
「AI PET」では。「ペットが呼んでいます」とAIが情報を話しかけてくれる

中村氏:いつ話しかけるというタイミングは何パターンか用意されていて、その中からランダムにプログラムが動いています。「ペットが呼んでいます」というお知らせがユーザーに届き、アプリを開いてペットの話を聞くという利用シーンですね。発話の部分はそれだけなのですが、それ以上の精度とはなにかという定義については模索しているところです。

 これをビジネスにどう活かすかという点では、例えば物販では以前にネットで見ていた商品をAIが記憶しておき、売り切れになりそうなタイミングで話しかけてくれるチャットボットや、不動産ビジネスでは物件を内覧しているときに接客してくれるチャットボットなどが想定されます。

――FAQの精度については、いまどれくらいの完成度にあるのでしょうか。

中村氏:AIはユーザーとの会話の中で、これは挨拶なのか/雑談なのか/質問なのかという意図を理解していますが、その精度はかなり高いと思います。一般的なFAQのチャットボットはユーザーの質問のなかからタグを発見してデータベースの中から答えを返しますが、AI PETの場合は方向性が異なり、質問の文脈からタグを発見する前に「この人はなにかに困っている状況だ」ということを理解し、情報を追加していくのです。その精度は相当高まっていると思います。

池上氏:ただ、この精度に関してはユーザーによって捉え方が異なるかもしれませんね。自然な会話を生み出すというAI PETの特性上、人によって会話が噛み合う場合もあれば、そうではない場合もあります。ただ、開発を進める中で会話が噛み合わないと感じる頻度はかなり減ってきていると思います。

――AI PETの性格付けに関しては、これまでの開発で改善した点などありますか。

池上氏:AIの口調を制御するエンジンが開発途中だったときは、ユーザーが怒って話しかけるとAIも同じように怒りながら返すという動きをしていて、会話ログを解析すると人とAIのコミュニケーションの中で少しずつ会話がギスギスしていって、最終的にはユーザーとAIがケンカしてしまっているといったシーンも見受けられました。今回のバージョンアップでは、怒っているユーザーにも優しく返答するようにチューニングしています。

AI PETで生まれた研究開発を、本業の顧客体験や働き方改革に活かす

――今回のバーションアップによって、ユーザーの利用頻度や利用時間などにどのような変化がありましたか。

中村氏:バーションアップから1カ月余りが経ちましたが、ログに記録されている会話の数は以前の倍に増えていて、そこからユーザーとAIの間でさまざまな会話が生まれていることが伺えますね。ログを解析すると、“癒やされたい”というニーズでアプリを利用する方が多いことがわかっています。なにか質問したいというニーズ以外にも、チャットボットに求めるものがあるということがわかったことは、実はとても大きいことだと感じています。今後アプリの接触頻度をより高めるためには、このニーズに応えることが大事だと思っています。

――ハウスコムにとって、このAI PETを機能拡充してきたことには、どのような意味あいがあるのでしょうか。

ハウスコム サービス・イノベーション室の室長である安達文昭氏
ハウスコムのサービス・イノベーション室 室長である安達文昭氏

安達氏:私たちにとって、AI PETは研究開発の1つであり、そこから収益を生み出したり新たな顧客創出をしたりという意図は一切ありません。ハウスコムではAIを賃貸物件の検索機能や問合せ対応に採用していますが、AIによる自然言語処理は優れたテクノロジである一方で、どうしても無機質さがあったり会話のなかで面白さが感じられなかったりという課題がありました。そうした課題に対して、AI PETでの研究開発の成果を本業のサービスや機能に盛り込んでいくことで、将来的な顧客サービスの拡充につながればと考えています。

中村氏:チャットボットの中に雑談を盛り込んでいく機能は、先ほどの話の通りある程度のレベルまで実現しましたので、近い将来、他のAIサービスに盛り込んでいくことも不可能ではないのではないでしょうか。従来のFAQだけのチャットボットでは、どれだけ膨大な情報を学習させてもユーザーの質問にウェブ検索のように機械的に答えて、その答えが消費されて終わりという形で使われます。しかし、私たちの開発しているチャットボットでは、そこに自然な会話が生まれることが期待できるわけです。AI PETを通じてAI開発の知見や教師データ構築のノウハウは、相当蓄積できたのではないでしょうか。

安達氏:そうですね。将来的には、AI PETを通じて開発したテクノロジを顧客管理システムと連携させたり、マーケティングオートメーションと連携させたりして、顧客とAIとの自然な会話を生み出しながら、部屋探しがより便利になるよう顧客サービスを拡充できればと考えています。

 加えて、代表の田村(代表取締役社長の田村穂氏)はAI PETの開発から生まれるテクノロジを顧客向けのサービスとしてだけでなく社内の働き方改革にも活かしたいという方針を持っています。ハウスコムは全国に店舗があり、本支店間での問合せやトラブルの相談なども頻繁に行われています。この問合せ対応に関して本社の担当部署に対する負担は大きく業務時間にも影響を与えてしまっているわけです。例えば、社内の対応マニュアルを参照すればわかるようなFAQについてはチャットボットで対応するなどすることで、社内コミュニケーションの負担軽減を進めていければとも考えています。

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