賃貸不動産大手のハウスコムは、不動産ビジネスをテクノロジで変革する“不動産テック”をテーマにしたセミナー「これからの不動産を考える2017 in TOKYO」を11月26日に東京都内で開催する。
当日は、特別講演として元大阪市長、元大阪府知事の橋下徹氏、元衆議院議員の杉村太蔵氏が登壇するほか、大手不動産ポータルサイトの担当者による座談会、大学生が参加するビジネスコンテスト、不動産とIoTの可能性についてのセッションなどが展開されるという。不動産事業者がこうしたイベントを開催する狙いについて、ハウスコムの代表取締役社長である田村穂氏に話を聞いた。
――まずは、今回のイベント開催について狙いを教えてください。これまでもこうした大規模なセミナーは開催していたのでしょうか。
田村氏:2016年から全国の賃貸オーナーを対象としたセミナーを各地域ごとに開催しています。主にリフォームなど賃貸オーナーの資産価値を高めることを目的としたり、不動産経営にまつわるファイナンスの知識を学べたりするセミナーで、今回ほどの規模で開催するのは初めてです。もっとおもしろい内容で賃貸オーナーに新しい発見をしてもらおうというのが狙いですね。
――どういった方に参加してほしいと考えていますか。
田村氏:ぜひ来ていただきたいと思っているのは、「次の賃貸オーナー」になる若い方々ですね。今、賃貸オーナーも代替わりの動きがあり、2代目、3代目という若い方も増えてきています。そういう方々は不動産テックにも興味があるのではないでしょうか。私たちとしては、既存の賃貸オーナーをサポートするセミナーではなく、新規の賃貸オーナーとどう繋がりを生み出していくかという点を大きなテーマに据えています。
――コンテンツの特徴について教えてください。
田村氏:狙いとしては、若い賃貸オーナーと不動産ビジネスに携わる若い人たちを繋ぐことを念頭においてコンテンツを企画しています。例えば、不動産分野のベンチャー企業の方に登壇いただくことで、そこに参加している若い賃貸オーナーと繋がりが生まれるわけですね。そこに化学反応が生まれることを期待しています。
――大学生を交えたイベントも開催されますね。その狙いについて教えてください。
田村氏:実は、ハウスコムでは毎月現役大学生に参加していただいて住まいに関するさまざまなテーマで座談会を開催しています。たとえば、「若い人が考えるお部屋探しのありかた」を開催してみたところ、今の若い方は大手不動産ポータルサイトでは部屋探しをせずに、InstagramやGoogle画像検索など写真で物件を探してる方がいらっしゃることがわかりました。私たちとしては未知の発想に触れて「そんな探し方をしているのか?」と新たな発見をするわけですね。こうした、新たなアイデアを私たちのビジネスにも活かしていきたいという狙いがあります。
若い方のアイデアが欲しいというのは私たちの大きなテーマです。ハウスコムとしては、若いベンチャー企業を集めてそのアイデアとハウスコムの持つビッグデータなどの資産を掛け合わせてサービスを生み出す「オープン・サービス・イノベーション・ラボ」を展開していますが、社内で「大学生のアイデアもおもしろいのではないか」という意見が出てきて、こうした企画を実施しています。
これまでは月1回の小さな開催でしたが、今回のイベントではリクルート住まい研究所の所長である宗健氏や日本大学スポーツ科学部教授の清水千弘氏も交えて、チーム対抗のビジネスコンテストとして大規模に行う予定です。優勝したアイデアはハウスコムと共同で新サービスとして実現したいと考えています。
彼らが不動産ビジネスに興味があるかは正直わかりません。しかし、新しいアイデアを作ってみたい、将来起業したいといった情熱を持った方々が集まっています。こちらから特にテーマや条件などは決めず、彼らの自由な発想で面白くて新しいアイデアを生み出して欲しいですね。
――こうしたビジネスコンテストは過去にも開催しているのでしょうか。
田村氏:ベンチャー企業を対象にしたものはいくつか開催していますね。たとえば、いまウェブサイトに実装されている「AI検索」は人工知能サービスを開発しているイタンジとの協業で生まれたサービスですが、これはビジネスコンテストでの繋がりがきっかけで生まれたサービスです。またビットエー、データセクションと共同で開発した「AI PET(アイペット)」も同様です。
もちろん、私たちのビジネスにおいてベンチャー企業とのオープン・イノベーションは非常に重要なポジションにありますが、一方でピュアな大学生と一緒に企画をやることで、社会人には考えつかないような新しい発想が生まれることを期待しています。
――イベントの開催趣旨が次世代の若い賃貸オーナーの方々と繋がりを持ちたいということでしたが、次世代の賃貸オーナーに必要なものとは何でしょうか。
田村氏:かつての賃貸オーナーは、その資産価値をどうやって高めるかを考えることがすべてだったと言っても過言ではありません。資産価値が不動産経営にとってすべてだった時代はそれでよかったのです。たとえば、多少不便な物件だったとしても、十分な資産価値さえあれば将来の売却が見込めたのです。
しかし最近は、資産価値の大きな上昇が見込めない状況になり、不動産経営で儲けるためには違うところに焦点を当てなければいけない状況になっているのです。つまり、立地や近隣施設の利便性、部屋の使い勝手といったサービスの面が不動産の価値を評価する上で重要になってきています。これに賃貸オーナーは早く気がつく必要があるのです。
今回のセミナーでも、通常の資産価値を高めることを目的としたものとは違い、サービスの拡充、入居者の利便性向上に役立つ企業に多く登壇してもらう予定です。若い参加者の方々にとっては、建物の資産価値を高めるという方向よりも、入居者にとってのバリューを高める方向のほうがご理解いただけるのではないかと思います。「入居者が住み始めたあとの価値」の重要性を伝えていきたいですね。
――重視する価値が転換する中で、住まい探しをしている人たちはどのような価値に魅力を感じるのでしょうか。
田村氏:「住み替え」って、幸せを求めてしますよね。これまで、その幸せの価値というのは、かつては結婚などライフイベントによって生まれる幸せだったり、通勤利便性を高めたいという幸せだったりしたわけです。しかし、今は同じ幸せでも「そこで生活するということが生み出す幸せ」へと変化しているのではないでしょうか。
通勤距離が長くなっても、将来的にはワークスタイルの変化によって通勤時間の重要度は薄れてくるでしょう。部屋にいる時間は長くなるのです。そこでの暮らしそのものが幸せを生み出せるかが重視されてきていると思います。最近では、駅からの距離よりも近くに使いたい施設が揃っているかなどを重視しているのです。それによって賃貸物件に求められる価値も変わってきますし、資産価値よりもサービスが重視されているのです。
――ということになると、賃貸オーナーが入居者のインサイト=どのような利便性を求めているかを知る必要がありますね。
田村氏:そこは大きなテーマになっていると思います。賃貸オーナーは資産価値を高めることにばかり目を向けて住まいとしての価値を考えないと、入居者にとってのバリューはどんどん薄れていってしまいます。入居者のライフサイクルまでを考慮したサービスに力を入れていく必要があると思います。
住まい探しをしている人がどうしたニーズを持っているのかという点については、私たちでも物件検索などから得られるデータを保有しているので、そうした知見を元にした賃貸オーナーのサポートをしていければと考えています。
実は、賃貸オーナーにとって収入は入居者からの家賃しかないのです。それはもったいないと思いませんか? 入居者へのサービス提供を通じて色々なビジネスが生み出せるはずなのです。
――最後に、これまでテクノロジを活用してさまざまな新サービスを生み出していますが、今後考えているテーマなどありますか。
田村氏:今回のセミナー趣旨からは離れますが、まず考えているのが社内の生産性向上についてですね。その延長上の新たな機能やサービスは構想しています。依然として手間暇が掛かってしまっている作業については、システム同士の連携による自動化なども考えていきたいと思います。フィンテック系の企業との連携も重要なテーマになってくると思います。労働時間は有限であり、その中で高い価値を提供していく必要があるのです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」