パブリック空間でのAI・ロボットとのコミュニケーションするにおいては、しばしば「恥ずかしさ」の問題が議論になる。果たして、緩和する手法はあるのだろうか。
向井氏は、デジタルサイネージ型音声対話システムの開発・運用に数多く携わっており、利用者観察の結果、ある傾向を発見したという。「とにかくまず子どもは(音声入力システムを見ると)ワーッと食いついてくる。そして、その親が『こら、何をしているの!』と叱るふりをしつつ、ロボットと喋っている(笑)。親も興味はあるのだろうが、エクスキューズが欲しいのだと思う。これが人間の心理なのでは」(向井氏)。
ただ、パブリック空間で声を出すこと自体が恥ずかしいのかというと、それもまた違う。たとえば、言葉がまだ通じない赤ちゃんに対して、母親が電車の中などで話しかけても、そこに恥ずかしさはほとんどない。向井氏はそう指摘し、人間そのものの研究がまだまだ必要だと語った。
一方、ロボットを介することでパフォーマンスが向上する例もある。青木氏は、名古屋大学にて実施されている「ロボットによる道案内」の事例を紹介。物理的なロボット(シャープ製のロボホンなど)をダッシュボードに置いておき、これにナビゲーションをさせる。すると、道案内の情報が利用者に対して伝わりやすくなるとの研究結果が出ている。この傾向は、高齢者運転時に特に顕著という。
「高齢者はどうしても反射神経が鈍くなってくる。このため『右です』と音声案内されても、聞き逃したり、とまどったりするケースが増えてくる。これを(ロボットの)ジェスチャーなどで伝えることで改善されるようだ」(青木氏)。
向井氏は今後のAIの普及、さらにその先の自動運転時代の到来によって、人間はもう少し“わがまま”になるのではないかと予想する。「たとえばロボットタクシー。最初は新宿に行ってとお願いしても、いやそこはやめて池袋、それもやっぱりやめてラーメン食べに行きたい……というように(運転手への遠慮がなくなって)わがままが出るように思う。そこで HMI(Human Machine Interface)の重要性がさらに高まってくるのでは」(向井氏)。
青木氏は、車そのもののロボット化、ひいては擬人化が一層進むと予想する。「車のセンサから得た情報と、運転者のパーソナルな情報が結びついて、車からの反応が変わる。たとえば、急いでいるときはカーナビの案内音声が早口になるとか(笑)。それはちょっと危ないかもしれないが、眠たそうにしているときにバンバン起こしてくれたりするかも」(青木氏)。
向井氏・青木氏の対談から伝わってくるのは、AI・ロボットの進化が加速度的に進む一方で、人間の生理・心理を意識することも同様に重要であるという点だ。音声入力の「恥ずかしさ」は最も分かりやすい例だが、プライベート空間ではそのデメリットが軽減されるなど、すでに多くの示唆もある。Nextremer、ユカイ工学の製品が今後どのように諸課題と向き合っていくのか注目したい。
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