野球選手育成に人事評価制度--徳島インディゴソックスとあしたのチームに狙いを聞く - (page 2)

人事評価制度は魔法ではなく“人を育てる土台作り”

--こういった行動目標を選手に話したときに、どういう反応をするのでしょうか。

あしたのチーム 営業本部 三好ランド マネージャー 西村耕世氏
あしたのチーム 営業本部 三好ランド マネージャーの西村耕世氏

南氏 :あまり表情には現れないですが、内心は驚いているのかもしれません。でも球団の方針として、選手自身がファンを作ると常に言っていることです。そのためのツールというか、わかりやすい表現として使ってます。

西村氏 :私も初期の段階では直接選手とお話しました。もちろん選手によって違いはありますが、総じてみなさんはNPB入りを目指しているわけですから、前向きに日々の行動について考えていますし、ストイックに目標設定をしています。同世代の会社員よりも、意識は相当高いです。

南氏 :目標の立て方にも個性は出ますね。単純に測れないところではありますが、意識が高い選手は、目標設定に関する文字数は多いかなと感じています。

西村氏 :目標設定がより具体的です。例えば単に「練習します」「頑張ります」だけでなく、「素振りを100回します」というように、練習メニューの細かいところまで設定します。そこから南さんのアドバイスによって細かいところまで踏み込んで、課題を見つけて目標設定をさらに具体的していきます。

南氏 :「頑張る」というような抽象的な言葉は使わせないようにしました。選手は野球に対しての目標は常に持ってますから、それ以外の部分で成長してほしいと。行動目標は、野球以外の方向性を示す形ですね。

西村氏 :あるNPBのチームに進んだ選手のエピソードですが、ファンへのあいさつについて「両手で握手をする」「近づいて引き寄せる」とか、具体的な目標を書いた選手がいたんです。その目標に対してストイックに取り組んで、ファンを付けていった選手でした。もちろんそれ以外の取り組みや努力あってこそですが、目標ひとつとっても細かく設定して前向きに取り組んでいました。

--人事評価制度導入の効果というのは、どのようなときに実感したのでしょうか。

南氏 :私が就任して半年後に導入したものですから、どう変化してどこまでが効果なのかを説明するのが難しいというのが本音ではあります。少なくとも球団側がどういう目線で選手を見ているのか、その意識の高まりは感じています。また、球団が選手たちに指示する営業やボランティア活動は、その場だけよければいいという感覚ではなく、自発的に必要性を理解したうえで動くようになっています。

西村氏 人事評価システムでは、直接何かを変えるというものではないため、数字として図れないものがあるのですが、ひとりひとりが目標を意識しているということは伝わってきます。三好で試合があるときには、私もボランティアで試合のお手伝いをしているのですが、選手の目標が頭に入ってますので、その通りにしているかを、さりげなくチェックすることがあります。私の見ている範囲では、決めた目標通りに行動できている選手が多いです。

 それが自発的、突発的にできているということは、営業やボランティア活動でも頭に入っている目標通りの行動ができているんだろうと思えます。ファンを作ろうという意識が芽生えていることの現れですし、ひとりひとりが目標に対して意識することを、より強く植え付けることができるようになったと感じています。 

南氏 :野球の会話はできるけど、いわゆる雑談とか野球以外の話題では会話が続かないことが多かったんです。それが少しつつボキャブラリーが増えて、会話が続くようになっていきましたし、シーズン前後でスポンサーのみなさんと話す場があるのですけど、どんな会社なのかを事前に調べる選手もいました。それまでは知らない人との会話ができなかった選手も多かったので、そこも意識付けの成果だと思われます。

--この取り組みは継続されると思いますが、今後はいかがでしょうか。

南氏 :球団としては、一流の選手であり、なおかつ一流の社会人として世に送り出すのがミッションだと考えています。人間性の成長がなければ一流の選手にはなれないと思いますし、愛される選手でなければ一流のプレーもできないと思っています。今後というところでは、地域に根差した球団として、徳島の地元住民やスポンサーに応援される球団でなくてはいけません。選手の入れ替わりが激しい状況はありますが、理念と方針を伝え続けて活動をしていきます。

西村氏 :私たちがやっている人事評価制度やコンサルティングは、魔法のように劇的に何かを変えるものではなく、人を育てる土台作りだと考えています。またジャンルは違っても、目標の立て方そのものも違いはありません。日々の行動を改善していくうえで、ちょっとした背伸びをした目標を達成するために、どのような行動をして改善していくのか、それを考えて明確に設定するというのがベースにあります。そこから先の具体的な行動は、職種や仕事内容によって違いは当然出てきますが、やろうとしていることは同じです。

 今回の取り組みからはまだ2年ですし、これから積み重ねていく必要があります。1年で半分の選手が入れ替わるので、毎年毎年球団の方向性や評価制度のあるべき姿、社会に出ていくための基礎作りを、南さんが選手に対して説明していますが、完成形があるというわけではなく、継続的にやるからこそ少しずつ磨かれていくものだと考えています。プロになる選手と社会に出ていく選手もいますが、一日一日勝負するための手段として、人事評価制度を活用してもらえたらと思います。

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