前回に続いて、目標管理・人事評価制度の定着化の理解を深めるため、組織の観点から制度定着のポイントを紹介します。前回は、目標管理および人事評価制度の定着には、「基準」「運用者の能力」「運用の工夫・ノウハウ」の3つのファクターが必要だと示しました。
特に、運用のノウハウ(管理職のうまいマネジメントの工夫)を生み出し、職場で実践するのは、人事部門ではなく現場の管理職です。今回は、こうした運用の工夫・ノウハウを抽出して、共有化する方法を学んでいきましょう。
まず運用の工夫・ノウハウを共有化するアプローチを紹介します。図表の「抽出、加工蓄積、共有化、新たなノウハウの顕在化」の4つのサイクルを回します。
A社で評判のよい管理職からインタビューを通じて運用のノウハウを抽出し、さらに研修で共有化、顕在化を進めた事例で解説しましょう。図表1を参照願います。
A社で10人程度の管理職にインタビューし運用の工夫・ノウハウ(管理職のうまいマネジメントの工夫)を聞き出しました。インタビューは管理職のマネジメントを顕在化(本人からマネジメントの取り組みを話してもらい第三者がノートに記録する)し、その中から運用のノウハウ」を抽出(外部の第三者が抜き出し見出す)する活動です。
例えば、目標設定面接活動内容を話してもらい、第三者の私が「部下の自主性を引き出すため、最初に部下が考えた目標を説明させる」という運用の工夫・ノウハウを見出していくのです。もちろん、それもノートに記録します。
インタビュー終了後、記録ノートをもとに、「運用の工夫・ノウハウ」を「加工・蓄積(ノウハウ集として編集し人事部門で保管)」します。ここまでが抽出から加工・蓄積です。
人事部門は、加工・蓄積したノウハウ集を管理職全員に共有化(中身を理解・納得できるようにする)させる場を提供します。その多くが研修です。人事担当者や外部の専門家が解説していきます。「私が進める面接とはひと味違う!」と管理職に気づかせることができれば、共有化の目的は達成です。
研修に参加した管理職の「運用の工夫・ノウハウ」を研修の場で「顕在化」させます。「指示待ち部下が自ら目標を設定できるようにするには」「評価に納得しない部下をどう指導すべきか」などのテーマを基に、管理職がアイデアを出し(ここまでが顕在化)、さらに人事担当者や外部の専門家がそれらを整理し、運用の工夫・ノウハウが見えるようにします(この取り組みが抽出)。
研修後、人事担当者がノウハウ集に追加し、加工・蓄積が終わります。以上の説明のように、外部専門家のインタビューでスタートした流れは、研修を通じて、社内で自立した流れに変化していくのです。
研修などで、運用のノウハウをスキルとして身につけることもできます。それが運用スキル習得アプローチです。部門目標がうまく部下に伝わらない、という目標管理・人事評価の運用問題には、「部下のわかる言葉で、部門目標の設定背景を納得づけるスキル」を習得します(次回、くわしく紹介します)。
ほかにも、何の根拠もなく、部下が甘い自己評価をつけてくる問題には、「評価根拠の事実を部下にもおさえさせる評価の証で捉えるスキル」を習得します。
以上、2つのアプローチで、管理職を主体に目標管理・人事評価の定着化を進めていくことをお勧めします。
組織的観点での目標管理・人事評価制度定着のポイントはご理解いただけたでしょうか。次回からは、目標管理・人事評価に関し、現場の管理者がすぐに活用できるツールやノウハウを紹介していきます。
金津健治
産業能率大学総合研究所
主席研究員
1954年生まれ。慶應大法学部卒。金融機関、コンサルティングファーム勤務を経て、87年学校法人産業能率大学入職。メーカーからサービス業まで、幅広い業種で、目標管理制度・人事評価制度の導入や定着化のコンサルティング、研修分野で活動。管理職研修や被評価者研修などの実績も多数。著書に「七つの能力-管理職前に身に付ける技法42」(日本経団連出版)、「目標管理の手引き」(日本経済新聞出版社)、「管理職のための七つの道具術」(プレジデント社)など。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」