「目標管理」とは、ベストセラーになった“もしドラ”(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)で知られる米経営学者P・F・ドラッカー氏が、ゼネラルモータース(GM)で事業部制を設計する際に生み出したマネジメントの考え方です。
英語ではManagement by Objectives (and Self Control)、略してMBOとも呼ばれ、1950年代に『現代の経営』(ダイヤモンド社)で我が国に紹介されました。その後、時代のニーズに合わせて目標管理自体も変化し、今日では評価の仕組みとして企業に受け入れられています。「目標管理は時代のニーズで活用のされ方は変わる。変わらないのはマネジメントの考え方」といっても過言ではありません。
大手企業のほとんどが導入し、市民権を得ている目標管理ですが、期待するほど定着していません。どの企業の人事担当者、管理職も運用に苦労しているのが、目標管理であり、目標管理と連動している人事評価です。
そこで、目標管理や人事評価の定着化に役立つよう、管理職の方がすぐに使えるノウハウを7回にわたり提供します。
まずは連載の全体像を紹介します。目標管理と人事評価制度の定着化について理解するために、連載の1回目(今回)と2回目で、組織の観点からみた制度定着のポイントを紹介します。
続いて「PDS」(計画・実行・評価)サイクルに沿って、第3回・第4回で「P(計画)」、第5回で「D(実行)」、第6回・第7回で「S(評価)」の場面で、管理職の方が目標管理・人事評価ですぐに使えるツールやノウハウをご紹介します。
人事部門が労力をかけて築いた目標管理や人事評価制度でも、根づかせるのは容易ではありません。そこで、根付かせるための定着化の枠組みを下図で説明します。
左側上段の「ファクター」は、定着化の決め手となる要素のことで、「基準」「運用者の能力」「運用の工夫・ノウハウ」の3つです。
二段目の「サイクル」は、目標管理・人事評価制度が企業で導入展開されるサイクルを三つのファクターに関係づけて示したものです。まず企業の制度・仕組みとして設定され(これが基準設定)、その仕組みを管理職に理解・習得させる研修を実施し(これがトレーニング)、そして管理職が職場で制度・仕組みを実践します(これが職場実践)が、管理職の「運用の工夫・ノウハウ(管理職の上手いマネジメントの工夫)」で差がつきます。
「部下が30人もいて面接できない」と立ち往生する管理職、「30人の部下の目標シートを事前に添削し、面接を手際よく進める」管理職もいます。後者の管理職の上手いマネジメントの工夫(これが運用の工夫・ノウハウ)を他の管理職に共有化させ、定着化に結びつけるのが「ノウハウ共有化アプローチ」、その「運用の工夫・ノウハウ」をスキル化し、研修等で習得させるのが「運用スキル習得」アプローチです。これら二つのアプローチは第2回で詳しくお話しします。
さて、図左側最下段の「アウトプット」は「サイクルごとに生み出される成果」です。「基準設定」では、人事部門が作成した手引書(これが基準書)、トレーニングでは、管理職が演習でまとめた「各種ワークシート」、職場での実践は、管理職の「活動」そのものであり、そして最後の定着化のアプローチでは、みなで上手いやり方を共有化しまとめたもの(これがノウハウ、QA集)です。
以上、定着化の枠組みをご紹介しましたが、特に「定着化には三つのファクター(基準、運用者の能力、運用の工夫・ノウハウ)がある」ことに注目してください。
次回は、三つ目のファクター「運用の工夫・ノウハウ」に基づく、二つのアプローチ法をご紹介します。
金津健治
産業能率大学総合研究所
主席研究員
1954年生まれ。慶應大法学部卒。金融機関、コンサルティングファーム勤務を経て、87年学校法人産業能率大学入職。メーカーからサービス業まで、幅広い業種で、目標管理制度・人事評価制度の導入や定着化のコンサルティング、研修分野で活動。管理職研修や被評価者研修などの実績も多数。著書に「七つの能力-管理職前に身に付ける技法42」(日本経団連出版)、「目標管理の手引き」(日本経済新聞出版社)、「管理職のための七つの道具術」(プレジデント社)など。
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