マーケティングの世界では、データを収集して解析することが重要だ。マーケティング会社でのAI活用の最前線は−−。2月27日に開催された「CNET Japan Live 2018」において、電通 事業企画局 チーフ・プランナーの児玉拓也氏が「『コミュニケーションの会社』は、AIをどう見るか」と題して講演した。
「AI活用の論点は、顧客体験のデザインだと考えている」と児玉氏は切り出した。「(フレームワークとしては)技術のシーズがあり、ビジネス活用・汎用化のソリューションができる。導入して個別化し、その次に訪れるのが顧客体験のデザインだ。例えばチャットボットを当てはめると、自然言語処理ができ、汎用チャットボットツールが開発された。チャットボットの導入により、自社のコールセンターの稼働を減らせたなどの効果が出る。その次は、顧客からのブランドリフト(ブランドに対するロイヤリティの高まり)を目指して改善していく。そこが、これからの課題になってくる(児玉氏)」。
また、AIが当たり前になっていくにつれ、AIをインストールするだけではく、目的に沿ってアイディアを盛り込み、ユーザーの体験を設計・運用・改善し、最大の体験価値を得られるようにすることがゴールになってくると児玉氏は述べた。
さらなるパラダイムシフトとして「AIのビジネス活用」にも触れたが、児玉氏は「ビジネスへのAI活用」と定義すべきだという。「テクノロジがあり、それを使ってどのようなビジネスチャンスがあるか、どのようにお客様に喜んでいただけるのか、主語をどちらにするのかが大事だ。私どもは技術オリジンの会社ではない。顧客に寄り添い、顧客の課題を主にマーケティングの領域で解決するというアプローチを取っている。テクノロジドリブンではなく、"ビジネス課題ドリブン"、または”ユーザードリブン”な開発アプローチが重要になってきている(児玉氏)」。
同氏によると、電通ではAIの相談にマーケティングでの解決方法を案内することもあれば、広告の相談にAIを提案することもあり得るという。AI活用におけるマーケティング発想が重要になると両者の関連性をまとめた。
続いて、電通が立ち上げているAIプロジェクト「AI MIRAI」を紹介した。これは、同社が持つAIに関するノウハウと社内外のネットワークを集約し、AIに特化した全社横断のプロジェクトチーム。クリエイティブ、メディア、情報システム、働き方改革などの各領域のプロフェッショナルが集結し、マーケティング、ビジネスデベロップメント、ワークスタイルの3つの領域に分け、AIのビジネス応用を推進する。
現在、約50名のメンバーで構成され、25以上のプロジェクトが立ち上がっているという。企業や学校など20以上のパートナーが参画しているそうだ。同社では、2018年2月にマーケティング領域におけるAI活用強化の一環として、データアーティストを子会社化している。AI MIRAIの中に技術部隊が入ることで、開発部隊の内製化への体制が整い、よりスピーディな対応が可能になるとのことだ。
続いて、電通の事例が発表された。まず、「カーナビとの対話による音声広告の実証実験」だ。車を運転し始めるとカーナビアプリが「キャンペーンを実施中です」と案内。そこに行きたい場合は目的地にセットできる。走行中にも近隣店舗を感知した際に来店を促すという広告だ。実証実験では、リアルに人を引っ張れるという大きな広告効果が得られていると児玉氏は述べる。現在は顧客にどういったトーンで語りかけたら良いのか、「はい、いいえ」で答えやすい質問は何か、どのように訴求したら良いのかといった研究をしている。
また、放送局と連携したAlexaアプリ「声優タイマー」の開発事例も紹介された。声優二人のどちらかが180秒カウントダウンするアプリだが、それに留まらず、この二人が出演しているラジオ番組で声や対話の内容をユーザーとやりとりして決めている。作りきり、売り切りのアプリではない。「AIや対話の領域に留まらず、ユーザー体験をいかに最大化させるかが我々の大きな課題であると捉えている(児玉氏)」。
さらに、NECのワイヤレスイヤフォンのプロトタイピング事例も発表された。このワイヤレスイヤフォンは高度な位置測定や耳の穴の形で生体認証ができるが、活用法について相談されたため、決済システムへの活用を提案したという。実際に、サッカーの試合会場で実証実験を行った。ハンズフリーの決済システムは高い評価を得られたと児玉氏は語った。
上記のようなプロトタイピングのメソッドは社内で体系化しているという。このチームではデザイン思考で発散してそれを形に落とし込み、市場でテストするまで2カ月程度のパッケージソリューションとなっている。
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