児玉氏によると、マーケティングのトレンドは「ピープル・ドリブン・マーケティング」に移ってきているという。電通が提示したフレームワークは、“人”基点でデータとデジタル時代のマーケティング手法を結集、高度化したものだ。
マス広告全盛時代は限られたマスメディアで届けていた。ターゲットもざっくりしていた。現在は、テレビやスマートフォン、電車など多様な接点があるため、様々なターゲットに直接届けることができる。一人ひとりにとって、最適なブランド体験を設計できるようになっている。
児玉氏は、「より多くの接点で、精度の高いコミュニケーションが可能になっているため、パターン数が増えている。それだけのクリエイティブを用意しなければならないことに頭を悩ませている」と語り、その解決のために社内で取り組んでいるプロダクトを紹介した。
まず、「広告を細分化できるなら、今の10倍広告を作ればもっと心を動かせる」という課題に対しては、AIコピーライター「AICO」という広告コピー生成システムを用意している。あるテーマを入れると、それに近い単語を組み合わせてコピーを生成する仕組みだ。「若いコピーライターがやっていることをワンクリックで生成できる。精度が低くても、これをコピーライターが整えることで有用なコピーになっていく。すでに社内だけで200名以上が発想支援に活用している」と児玉氏は述べた。
また、オンラインクリエイティブのスコアリングにもチャレンジしている。SNSの広告の要素を分析し、要素と背景色などを抽出する。その効果が良かったか良くなかったかを学習させることで、広告の効果を事前に推測できる。あまり効果が出ないようであれば、背景色を変えれば良いなどの提案もできる。このAIは、2018年中の実践投入を目指しているという。
電通はテレビCMの自動生成へも意欲的だ。CMを学習させてありそうなCMをサジェストするツールも開発中で、2018年中のベータ稼働をめどに動いている。
「今までのクリエイターの仕事はAIに代替されるものではなく、より精緻なコミュニケーションを可能にするパワードスーツだと我々は考えている」と児玉氏は語った。
話題はメディア領域の話へと移る。ここでは「テレビ局の小回りが効かない。(CMを)見せたいお客様に対して最適化されているのか不透明」という課題があるという。そこで、過去の視聴率などを学習させることで視聴率を予測できる広告指標予測AI「SHAREST」を提供している。過去の視聴率、タレント、ジャンル、番組時間などを学習させることで、視聴率を予測できる。
テレビ関連では、視聴率予測だけでなく、タレントの潜在パワー予測やデジタル広告のリアルタイム発信にもAIが活用できないかと検討している。テレビの多様な広告枠と、多様なスポンサー群、多様なCMが最適に配分できるという。児玉氏は「広告効果の事前予測が可能になる。これは広告業界的には画期的なことだ。ビジネスモデルの転換を目指して着手している」と述べた。
そして、よく依頼される相談に「とにかくバズらせてください」というものがあるという。電通としても、流行が来るものを予測することができれば、リアルタイムマーケティングを精緻化できると考えている。
そこで、"流行"そのものを二次元軸にプロットできないかをチャレンジし、それをグラフ化したものが下の写真だ。オレンジの線はSNSで火が付いてそれをテレビが拾い、そのテレビがだんだん下火になる一方、青い線はテレビで始まってSNSに火が付いた。テレビでの露出量が減っていってもSNSでは引き続き話題になっているという事例だ。
こうした流行分析と予測をツール化することも進めている。テレビのトレンド伝播パターン分析&予測ツールは、アルファ版を運用中だ。
最後に、児玉氏は「AIとの対話には、アルゴリズムや対話エンジンの精度だけでなく、ユーザーインサイトや体験設計力、プロトタイピングが重要になってくると考えている。マーケター・クリエーターの能力を拡張することで、より精度の高いコミュニケーションが可能になる」と締めくくった。
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