朝日インタラクティブは2018年2月27~28日、都内で「CNET Japan Live 2018 AI時代の新ビジネスコミュニケーション」と題したイベントを開催し、ビジネスを成長させるコミュニケーションのあり方を議論した。本稿ではハウスコムの取り組みを紹介する。
不動産賃貸仲介業は他業種と比べて、IT化が鈍い業種だ。それでも昨今はスマートデバイスの活用やリモート接客、シェアエコノミー化など、多様なアプローチが進みつつある。それは住宅が人の営みに欠かせない存在であり、人々のライフスタイルを構成する重要な部品だからだろう。「住まいを通して人を幸せにする」(ハウスコム 代表取締役社長 田村穂氏)と明言するハウスコムは、全国165店舗を持つ不動産賃貸建物仲介企業だが、次のように現状の問題点を指摘する。
現在の不動産賃貸仲介業ビジネスモデルは、必ずしも入居希望者が目的の物件を賃借できる保証はない。「航空券に例えるなら、事前に予約をしていたにもかかわらず、搭乗してみて初めて席が空いているか分かる状態に等しい。顧客からすれば約束した日に案内されても(情報伝達差で)部屋が空いていないことがある」(田村氏)ような情報の偏在が散見される。
また、同じ物件情報を各企業が扱い、インターネット上でも情報があふれた状態を田村氏は、Michael Ende氏著「自由の牢獄」のようだと吐露した。「社会は(ITで)変化しているのに、不動産賃貸仲介業は変わらない。それでいいのか」(田村氏)と自問自答した結果、培った営業力やデータをAI(人工知能)に託してみようと、AIソリューションへアプローチした理由を語った。
これまでハウスコムは「AI物件検索」「AIチャットbot」など、いくつかのプラットフォームを提供してきた。AI物件検索は年間7万件の契約データを元に選択的対話を通じて不動産物件を提案するウェブサービスである。AIチャットbotは従来の電話やメールによるコミュニケーションを置き換えるためのウェブサービスで、24時間の対応で営業の効率性を高めるために導入。だが、高度な会話になると現状のチャットボットでは限界があったという。
そこで自然言語処理の精度を高めるため、ペットという仮想人格と会話する「AIPet」をリリース。さらに2017年6月にはLINE上で物件選択までの対応を行う「マイボックスでお部屋探し」を開始した。これらの導入効果について同社は、「不動産大手ポータルサイトからの反応やLINE連動効果は上々だ。コミュニケーションツールを使うことで初回来店率が最大5%向上し、再来店率も最大6%まで向上。チャットボットを使って顧客が求める時間に対応することが、顧客満足度につながる」(田村氏)という。
今後のAIアプローチに対してハウスコムは、IoTデータによる部屋の価値を可視化するソリューション開発を目指す。具体的には計測キットおよびセンサを空き部屋に設置して、温度や湿度、照度や騒音を計測。住んだ人にしか分からないデータを可視化する。さらに2017年12月に開催した大学生ビジネスコンテストの受賞アイデアを元に、地域や物件に対するクチコミデータや貸し主、借り主の履歴データと、学校区の境界線および学校位置を示す学区データや、公園や散策スポットなどのレジャー施設データ、コンビニエンスストアや図書館など生活に役立つデータ、警察署や病院など暮らしに安心を与えるデータを加えて、「ちょっと先の将来。回りの生活音や環境など明日分かる情報を部屋探しのタイミングで伝える」(田村氏)ことで、地域価値の可視化を目指す。
ハウスコムの説明ではいずれも基礎設計の段階だが、個々のライフサイクルなど鑑みつつ、未来をイメージしながら物件を探した方が夢も広がるだろう。「我々はライフスタイルに合わせた部屋探しは得意だが、今後は未来の人生をデザインできる部屋探しサービスの提供を目指す」(田村氏)ため、AI技術を今後も積極的に活用していく。
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