CADデータを“さわって”確認--exiiiから触覚デバイス、日産が導入

 スマートフォンから車、建築・土木など幅広いプロダクトを設計する上で欠かせない存在がCAD(Computer Aided Design)だ。これは、人の手による設計作業をコンピュータ上で実施するもので、現在ではオートデスクの「AutoCAD」をはじめ、さまざまなCADソフトが発売されている。

 CADが普及してから数十年経過するが、2Dのディスプレイ上で設計するスタイルは長らく変わっていない。設計データをもとに3Dプリンタを使ってプロトタイプを作成したり、特に車など大きなプロダクトであればクレイモデルなどを製作することで、実際の見た目や操作感などを確認するのが一般的だ。

 しかし、車のクレイモデル製作は1000万円ほどかかり、設計変更ごとでのモデル製作はコストと開発期間の増加につながってしまう。そこで、ハードウェアスタートアップのexiiiは、オブジェクトに“触る”ことのできるウェアラブル触覚デバイス「EXOS」を開発し、これを活用した“CADデータに触れる”3Dデザインレビューシステムを開発した。これにより、CADデータの作成・修正の際に、いち早く視覚・触覚をもとにしたレビューが可能となる。


ウェアラブル触覚デバイス「EXOS」

 EXOSは、2種類のデバイスをラインアップする。「EXOS Wrist DK1」は、腕と手のひらに固定するタイプのデバイスで、掌背屈(前後方向)と橈尺屈(左右方向)の二方向にモーターのトルクをかけることで、VR内のオブジェクトに触れる感覚を再現する。「EXOS Gripper DK1」は、クリップ状のデバイスに手の指を入れることでVR内での“つかむ”感覚を再現するデバイス。マジックテープなどでの固定が必要ないため、カジュアルな用途に適している。


「EXOS Wrist DK1」は、腕と手のひらを固定して使用する触覚デバイス

「EXOS Gripper DK1」は"つかむ"動作を再現するデバイス。Wristモデルよりも装着は簡単だ

 また、EXOSシリーズは、Unity用SDKを配布同梱しており、開発環境をスムーズに整えられるほか、Wristタイプでは、アタッチメントの交換により「Vive Controller」や「Oculus Touch」との同時使用も可能となっている。既存のVRシステムと共存できるため、すでに制作したコンテンツの拡張にも対応でき、ゲームなどでの「銃を撃つ」「ボタンを押す」といったイベントをトリガーとしたフィードバックも可能だという。

 同レビューシステムだが、VRを用いてCADデータをレビューする取り組みを始めている、日産自動車グローバルデザイン本部での活用の検討が進められている。視覚と触覚を組み合わせた直感的なレビューが可能なため、「ハンドルやバックミラーの位置はどのくらいにあるのか」「運転席からボタンは押しやすいのか」 といったケースをVR上で確認できるという。

 もちろん、細かい手触りなどの検討まではカバーできないため、最終的にはクレイモデルの製作が必要となるが、ラフな検討はデータさえあればすぐにチェックできるため、インテリアデザインにおける課題の早期発見や、完成イメージとのギャップの最小化、通常5台製作するというクレイモデルの製作回数削減によるデザインプロセスの短縮化などが実現できるとしている。

もともとカッコイイ筋電義手を開発していた

 高いハプティクス技術を持つ同社だが、もともとは近未来なデザインの筋電義手「handii」を開発したスタートアップでもある。現在、handiiiの設計データはオープンソース化され、NPOに引き継がれているという。exiiiの前社長もNPOに移り、引き続き筋電義手の開発を続けている。ハンディキャップを持つ人には確実に必要とされる筋電義手だが、どうしてもビジネス面でスケールしづらかったのが技術移管の背景としてあると、同社代表取締役社長の山浦博志氏は語る。


筋電義手「handiii」

 handiiiなどの開発によって蓄積されたハプティクス技術の応用先として選んだのが、VR空間における触覚の再現だった。高度なハプティクス技術が解決できるビジネス上の課題において、まだ装着のハードルが高いVRヘッドセットを使ってでも解決したい課題、得られるリターンを精査した結果、CADデータのデザインレビューにたどり着いたと同社COOの金子大和氏は説明する。事実、日産では、クレイモデルに多くのコストを掛けていたほか、VR空間上の車に触りたいという声がデザイナーから多く上がっていたようだ。

 また、長期的に見てVRデバイスが普及していくと見立てているのも要因の一つだという。「VR元年」といった言葉が生まれて久しいが、VR/ARが一般的に普及したとはまだ言いづらい。しかし、金子氏は当たり前にバーチャルオブジェクトがリアルと同じように見える世界が訪れるとし、「見える」「聞こえる」の次に、触れたいという願望が必ず出てくるとしている。「デジタルオブジェクトを買うときの所有感を得られるニーズもあるだろう、それがいつ来るのかを見極めないといけない」と同氏は語る。

 こうしたハプティクス技術のベースがあり、それを活用してもらえそうな企業パートナーを探していたところ、カーデザイン分野でVRを導入し始めていた日産から声がかかった。また、R&Dレベルではあるが、離れた場所からロボットを操作する「テレイグジスタンス」用のフィードバックデバイスとして、ロボットを扱うメーカーからも話が舞い込んできたという。

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