ハードウェア開発で高い技術力を持つexiiiだが、山浦氏はもともとパナソニックでデジタル一眼カメラの機構設計に携わっており、金子氏はVRヘッドセットのスタートアップ「FOVE」のプロダクトマネージャーを務めた経歴を持つなど、両氏ともにハードウェアに対しての十分な知見を持ち合わせている。
深センを中心にIT・ハードウェアで席巻する中国や、「FrenchTech」を掲げ、国を挙げて育成に取り組むフランスなど海外で勢いのあるハードウェアスタートアップ領域だが、日本での現状はどうだろうか。山浦氏は、「単体で成り立っていくのはかなり困難だが、それを巡る周辺環境においては日本は全然有利な環境」だと説明する。
「これだけ家電メーカーが密集している国は他にはない。ハードウェアのバックグラウンドを持つエンジニアは見つかりやすいし、開発に必要なパーツもすぐに揃えられる」(同氏)という。エンジニアのスキルとしては一流であるものの、こと採用に関してはまだまだ大変なようだ。金子氏は「電機メーカーの多くは大手で安定しているため、同じ企業でずっと働きがちになる。ソフトウェアよりもスタートアップへの心理的障壁は大きい」と指摘する。
ただし、「体感としては、スタートアップへの転職が選択肢の一つになってきている」と、山浦氏はここ数年の変化を感じている。金子氏のようにハードウェアスタートアップからハードウェアスタートアップへの転職モデルが出てきたことも、スタートアップへの障壁を下げているという。金子氏は、VRデバイスを手がける大手メーカーは国内には存在しないため、新しい分野に興味のある人に来てほしいとエンジニアにラブコールを送る。
ハードウェアスタートアップを取り巻く環境に関しては、シリコンバレーの動きは早く、大手を含めてスタートアップのことを理解している。一方で日本の大企業は理解できないという論調が一時期、大半を占めていた。資金を提供する側なので、無理な条件を提示したり、権利をすべて得ようとするほか、スタートアップのいちばん大切な時間工数を奪うことが、日本企業のネガティブ面として語られていた。
こうした大企業との連携も、大企業側の理解が進んできてると山浦氏は語る。日産との提携も「オープンイノベーションという潮流が後押ししてくれたと思う。大企業にとっては弊社のようなスタートアップと組むことはリスクになり得るが、リスクを取らないことには何も起こせないと感じているのではないか」としている。残念ながら、いまだにスタートアップへの理解が足りなかったり、技術を丸ごと得ようとする会社も存在するというが、全体的に見れば、大手とスタートアップの関係は大きく改善しているようだ。
ハードウェアスタートアップが成長する環境は整ったのだろうか。山浦氏は個人の見解としつつも、「この道で進めば成功する、といった明確なサクセスロードがハードウェアスタートアップに対してはまだない」と指摘する。ただし、設計や量産など参入障壁の高いハードェアスタートアップを選択することそのものが戦略の一つになっており、ハードウェアの先に何を用意するかも重要になるという。
例えば、巨大中国メーカーが類似商品を出した場合の想定も必要になってくる。金子氏は、「開発スピードも一つの武器であるが、柔軟にビジネスモデルを変えられるか、ハードウェアではない領域でどう戦っていくのかを常に考える必要がある」としており、山浦氏も「ライセンスビジネスなどはわかり易い例。ハードウェアを用いてノウハウを蓄積し、それを収益率の高いビジネスに生かす。ハードウェアを手段とし、それを組み合わせてどういったソリューションやビジネスを考えるかが重要」と指摘する。
こうしたハードウェアスタートアップならではの戦略もあるものの、純粋にハードウェアが好きでスタートアップを手がけている人も多いという。山浦氏は、「正直、私も半分は好きでハードウェアをやっています」と笑顔を見せつつ語った。
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