ロボットと一緒に会話を盛り上げる「新感覚対話AI」の実力

 NTTは複数のロボットと会話しながら情報を提供する「新感覚対話AI」の開発に世界で初めて取り組み、この2月から京都市動物園で実証実験をしている。この実証実験は動物園の営業中(時間は不定期)は誰でも体験可能で、2月末まで実施される予定だ。

  • 実証実験している京都市動物園

  • 動物園の図書館カフェは入園しなくても利用できる

  • 対話に集中してもらうためロボットは動きや表情を抑えたデザインにしている

  • タブレットは事前の情報入力用

  • マイクを使って音声だけで2台のロボットと対話する

 NTTではこれまで、NTTグループのAI関連技術「corevo」の研究開発の一環として、スマートフォンやスマートスピーカーで使われている音声アシスタントとは異なる、利用者の興味や好奇心を対話から引き出す雑談対話AIに取り組んできた。質問や指示に答えるタスク対話だけでなく、雑談を交えながらAIとの会話を楽しむことで、利用者の満足度も高められる。ただし1対1では、しばしば話題が途切れたり破綻してしまうため、2台のロボットが“間をつないで”自然な対話ができる新感覚対話AIの開発に取り組んでいる。さらに今回の実証実験では子どもたちを相手に、普段の話し言葉を使えるようにしているのがポイントだ。

 システムの開発を担当するNTTコミュニケーション科学基礎研究所の杉山弘晃研究主任は「対話を続けるには間が大切で、少しでも遅れがあると違和感を感じる」と説明。その間を無くすには反応が早くなければいけないため、クラウドではなく横に置いたノートパソコンで会話もロボットの動きもすべて制御している。「限定された環境内で精度の高い対話ができるようカスタマイズを重ねています」

 実験では、京都市動物園の中にある図書館カフェの一角に体験コーナーを設置。2台のロボットの前に座った子どもがタブレットで興味のある動物を選び、マイクを使って話しかけると、ロボットとの対話が始まる。動物園にいる10種類の動物に関するトリビアをあらかじめ入力した辞書を作成し、それを元に対話を進めるようにシステムを設計している。

 まずロボットたちが自己紹介したあと、「○○さんはフクロウが好きなの?」と質問をうながしたり、答える前に「ふむふむ」と考える仕草を交えて相づちをうったりしながら、対話を進めていく。2台のロボットが交互に答えるので、間が空いたり、答えの内容が少し不自然でも、そのまま流れがつながっていく印象だ。

 利用する子どもたちの年齢はさまざまで、しゃべりかたもいろいろだが、話し言葉はほとんど問題なく認識していた。また、しばらく入力がない時はロボットたちどうしで会話しながら間をつないでいた。ただし、辞書が限定されているせいか質問に答えられなかったり、ロボットだけでしゃべり続ける時間が長かったり、調整が必要な部分も見られた。

 ロボットのデザインは、マツコロイドで知られる大阪大学の石黒浩教授の研究室の協力を得て現在の形にしている。対話に重要なアイコンタクトができるよう目を大きくし、2台のうちどちらが話をしているかがわかるよう口が動く。ただし、喜怒哀楽の表情はなく、声も中性的だ。

 「カメラを組み合わせて相手の表情にあわせた相づちなどをできるようにするなど、対話を続ける方法はいろいろありますが、今回の目的は対話だけでどれだけコミュニケーションが続けられるかを判断すること。ロボットの動きも会話を元にしたアイコンタクトと身振り手振りだけで表情は見せず、最低限の情報量だけで、利用者がどれだけ違和感なく対話が続けられるかを調べています」(杉山氏)。

  • 「ノートパソコン1台でネットが無い所でもAIが設置できます」と説明するNTTコミュニケーション科学基礎研究所の杉山弘晃研究主任。

 対話力をAIで強化学習することもできるが、その前に人が会話の満足度に何が必要なのかを調べるのが大事で、そうした基礎的な研究が今後のAI開発では重要になるという。たとえば、会話を終わらせるクロージングも大事で、どうすれば違和感なく話を終えられるかが実験を通じてわかってきたという。

 「AIを利用するシチュエーションはさまざまですが、新感覚対話AIが得意とするのは美術館や博物館のように知識を深めていく場所での利用です。システムもコンパクトなうえ、ネット接続も不要なのでどこでも設置できます。基本的なシステムができればロボットの代わりにCGを使うなどの応用も可能です」(杉山氏)。

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