故人との別れを、影で支えるICT--アスカネットが遺影写真事業の制作現場を公開

 アスカネットは、写真家であった福田幸雄氏が1995年に設立。それまで、広島で「飛鳥写真館」という写真スタジオを経営していた福田氏は、遺影写真の制作依頼が多数寄せられたことから、全国各地のニーズに応えるため、通信ネットワークによって遠隔地からでも写真の送信、出力が可能になるシステムを独自に考案したという。現在では、同社は全国約2300カ所の葬儀社と提携。年間34万枚の遺影写真制作を行っており、市場シェアは30%を超える。

用意している人はわずか2.2%しかいないという現実

 なぜ同社は遺影写真の制作を事業化したのか。同社フューネラル事業部の青砥剛氏によると、その背景には、遺影写真をめぐる遺族の苦労があるのだという。

遺影写真を加工するアスカネットのオペレーションセンター
遺影写真を加工するアスカネットのオペレーションセンター

 親族との別れは、突然やってくる。最近では「終活ブーム」などによって遺影写真を予め用意する人もいるが、多くの場合は突然の別れから通夜、葬儀までの間に、急いで遺影写真を用意する必要がある。しかし、遺族にとっては、遺影に適した写真を探し出すことも難しければ、スナップ写真などの普通の写真を遺影に仕立てるには相応の技術が必要になり簡単にできることではない。結果的に、免許証写真や集合写真などから遺影写真にデジタル加工するケースがほとんどだという。

 「遺影写真は遺族が探しだすのが非常に大変で、なかなか適した写真がないと苦労される方が多い。自社調査だと遺影写真を用意している人はわずか2.2%しかいないという現実もある」(青砥氏)。


アスカネット フューネラル事業部の青砥剛氏

 こうした遺族の苦労を解決し、美しい遺影写真で故人を送りたいという考えのもと、同社では全国の葬儀社からの依頼に対して、原版となる写真を加工して遺影写真を1時間程度で制作して遺族に届けるサービスを開発したのだという。

 具体的には、提携している葬儀社にスキャナ、プリンタ、PCを搭載した専用の遺影写真通信出力システムを設置して、広島県、千葉県、滋賀県にあるアスカネットのオペレーションセンターとネットワークで接続。そこでスキャナに遺族が提供する写真を置いたり、写真データが入ったSDカードをPCに挿入すると、オペレーションセンターが写真を遠隔操作で取り込む。そして、各拠点にある制作チームが遺影写真を制作すると、遠隔で各葬儀社の端末に送信し、備え付けのプリンタで出力する。


遺影写真通信出力システムのサービスイメージ

スキャナ、プリンタ、PCをまとめた遺影写真通信出力システム

 加工する原版となる写真は、一般的なスナップ写真から集合写真のようなものまでさまざまで、青砥氏によると印刷された写真で顔の大きさが3センチ程度あれば加工できるほか、それ以下のサイズでも要望に応じているという。また加工範囲は多岐に渡り、喪服を着せて背景を加工することはもちろん、背景を遺族が希望する写真と合成したり、肌の質感や表情を良くしたり、髪の毛の量や長さを調整したり、病気で痩せてしまった場合には少しふっくらさせるような加工も、遺族の要望に応じて行うのだという。

 「3カ所に拠点を置いているのは、停電・災害などによって作業ができなくなった場合に相互にバックアップができるようにしているため。作業ができなくなっては葬儀のスケジュールに間に合わなくなる。実際、東日本大震災の際には千葉の拠点が打撃を受け、広島で全て作業を行った。その後リスク回避のために滋賀に3拠点目のオペレーションセンターを設けた」(青砥氏)。

オペレーションセンターから遠隔で葬儀社のPCを操作し、写真を取り込み加工する
オペレーションセンターから遠隔で葬儀社のPCを操作し、写真を取り込み加工する
加工を終えた遺影写真を葬儀社のPCに転送し、プリンタを遠隔操作して印刷する
加工を終えた遺影写真を葬儀社のPCに転送し、プリンタを遠隔操作して印刷する

加工プロセスは独自のノウハウを構築、テスト実施で技術レベルをそろえる

 取材した千葉県幕張のオペレーションセンターでは、35名のスタッフで1日あたり300~350件の写真を加工。3つのオペレーションセンターを合計すると100名程度のスタッフが写真加工に携わっているという。作業依頼は全国の葬儀社からFAXで届けられ、注文書の管理番号を用いてデータを管理。加工にあたっての遺族からの要望は葬儀社がとりまとめるほか、細かい点に関しては各作業者が葬儀社と電話でやり取りしながら作業を進めていくという。

 スタッフは、「Adobe Photoshop」を使用して写真を加工。既成のソフトウェアだが、その加工プロセスなどは独自のノウハウを構築しているという。オペレーションセンターの責任者である吉宗裕文氏によると、スタッフは入社時に3カ月間写真加工技術の研修を行い、3段階のテストに合格した者だけが作業現場に入れる仕組みにすることで、技術レベルをそろえているとのこと。

 「出力前に作業者以外のものが写真の出来栄えを検査することで品質を担保している。また、毎月チームで1度ノウハウを共有する機会を設けているほか、技術レベルが衰えないように年に1回加工技術のコンテストを行っている」(吉宗氏)。

小さな写真も独自のプロセスで加工して遺影写真に仕上げていく
小さな写真も独自のプロセスで加工して遺影写真に仕上げていく

 スタッフのPCには数々の顔が表示されているが、これらはすべて故人の写真だ。カップルか夫婦で撮影したと思われる若者のスナップ写真を原版として遺影写真を制作している様子を目の当たりにした際には、筆者も胸が締め付けられるような気持ちになった。「1枚1枚、少しでも美しく写真を仕上げて遺族の方に提供できればと考え、スタッフは心を込めて取り組んでいる」(吉宗氏)。

 ちなみに、こうしたシステムは創業時の1995年から構築しており、当時はアナログ回線で通信速度が遅かったため作業に時間が掛かることもあったそうだが、最近では、通信環境の向上やデジタルカメラの品質向上により、遺影写真だけではなく故人のデジタル写真をスライドショー作品にしてモニタに表示させる「モニター遺影」も提供しているという。

 加えて、クラウド技術の進歩によって、自分の写真や高齢家族の写真をはじめ、自分史、葬儀招待者のリスト、遺族へのメッセージ、家系図などを生前にクラウド上に保存しておける「遺影バンク」というサービスも手掛けているとのこと。

 また同社では、遺影写真加工だけでなく同社が開発した空中映像投影技術「ASKA3D」の技術を活かして、空中に遺影の画像を浮かび上がらせる焼香台などを提案しているほか、今後も新たなサービス展開を予定しているという。「フューネラル事業は20年以上手掛けているが、他社も同様の事業を手掛けたり個人でも写真加工やネットプリントが容易にできるような時代なので、これから新しい付加価値を提案していければ」(吉宗氏)。

高解像度のモニタに故人の写真を移す「モニター遺影」
高解像度のモニタに故人の写真を移す「モニター遺影」
空中映像投影技術「ASKA3D」を活用した焼香台では、目の前に遺影が浮いて見える
空中映像投影技術「ASKA3D」を活用した焼香台では、目の前に遺影が浮いて見える

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