一度でも入院したことがある人や、大きな病気が見つかったことがある人なら、医師による検査がいかに多いか知っているだろう。脈拍を測ったり体重を量ったり、血液検査やさまざまなサンプルの採取もある。
つまり、患者の病状がどのくらい悪いのか、医師はかなり詳しく把握しているということだ。ところが、おおむね健康な人の状態となると、それほど細かく把握しているわけではない。医療従事者は、明らかに具合が悪くない人を検査するということに、時間も手間もほとんどかけていないからだ。
だが、「Project Baseline」では、健康な人からも豊富なデータが得られると考えている。そのデータは、病気になる可能性を予測する上で有効なだけでなく、疾患の発症を遅らせる、さらには発症を完全に食い止めることにも利用できるかもしれない。Project Baselineは、Verily Life Sciences(2015年にGoogleからスピンオフされ、親会社のAlphabet傘下となったライフサイエンス事業)と、米デューク大学医学部、スタンフォード大学医学部の共同研究プロジェクトとして2017年に始動した。約5年間のプロジェクトで、成人してから老齢に至るまでに人の健康状態がどんな過程をたどるのか記録することを目指す。疾患発症につながる要因を突き止め、人々が長く健康でいられるようにその要因を改善できないか探るのが目的だ。
「今は、誰かが病気になったときや、がんを発症したり再発したりしたときに、過去を振り返ってみて『2年前のこれが原因だった。その後、条件がこう変化し、それが続いて今の発症に至ったのだ』と言えるだけの情報を得られることは、なかなかない。Project Baselineでは、疾患を予測するための基準となる情報を増やそうとしている」。スタンフォード大学医学部の学部長Lloyd Minor博士は、米ZDNetにこう語った。
平常の健康状態と、変調があったときの様子を総合的に把握するために、Project Baselineはボランティア1万人の登録を目標にしている。ボランティアには、自分の身体の状態に関するあらゆる要素について、毎日データを集めて共有してもらう。
2017年には、米国の4つの拠点を合わせて700人がProject Baselineに登録した。現在は、各人の健康に関する行動と、遺伝上の背景情報を基準にして登録者の分類を始めようとしているところだ。
「プロジェクトが進めば、人の健康状態がどのように変化するのか解明できるだろうし、うまくいけば、ごく初期の兆候を特定できるかもしれない。人の健康状態がたどる過程を解明する絶好の機会になる」。こう話すのは、デューク大学医学部の臨床研究所で副学部長を務めるAdrian Hernandez博士だ。
このように健康に関する個人情報をテクノロジ企業と共有するとなると、プライバシーの問題を懸念する向きも多いだろう。だが、Project Baselineはこうした情報がやがて、病気との闘いや長期的な健康状態の向上に役立つだろうと期待をかけている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」