「脳ハッキング」で人類がAIの進化に対抗する日は来るのか

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2017年12月20日 07時30分

 筆者の手には、チップが埋め込まれている。これは本当の話だ。

 2年前、ベルリンで開かれたテクノロジ見本市の楽屋裏で、入れ墨をした男性が注射器でチップを注入してくれたのだ。耳にピアスの穴を空けるときくらいの痛みしかなく、所要時間も同じくらいだった。チップは米粒ほどの大きさで、それまでとは違うスマートフォンの使い方ができるようになった。だが、正直に言うと、筆者がこの処置を受けてみたのは、純粋にジャーナリストとしての動機からだった(記事のためなら、大概どんなことでもする)。

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提供:Getty Images

 「アップグレード」という点では、筆者の体験はおおむね無害で、大ごとでもなかった。だが今や、人間の脳を増強して「超知性」を発達させようと考えている企業家もいる。そうなると、脳にテクノロジを埋め込む、いわゆる「ブレインコンピュータインターフェース」を作る処置が必要になるだろう。

 これは、人工知能(AI)とロボット工学の発展に対する過剰な反応のひとつと見なすこともできる。この発展については、人類にとって最高の出来事と考える人と、最悪の出来事と考える人に二分される。Stephen Hawking氏やElon Musk氏といったテクノロジの権威は、このテクノロジの誤った使われ方について悲観的な立場で警告を発している。だが逆に、テクノロジを利用して人間の能力を強化するチャンスであり、AIとの連携さえ可能だと考える立場もある。Musk氏自身が立ち上げた企業のひとつは、そちら側だ。

 自身の会社Kernelで、脳を増強する機器を開発しているBryan Johnson氏は、11月にポルトガルのリスボンで開催された「Web Summit」で、次のように語った。「私が最も懸念しているのは、人間には協力できるだけの能力がないことだ。協力することができれば、われわれは問題を解決できる。問題解決という目標に向かって、われわれが一丸となって取り組むことを私は願っている」

 ブレインコンピュータインターフェースができれば、人間同士のコミュニケーション(そう、テレパシーのような話だ)だけではなく、人とコンピュータとのコミュニケーションも実現するかもしれない。理論上は、AIと連携して、世界中の難問を解決することだって可能になる。

 そういった意味で、Johnson氏が試みようとしているのは、人類にとって一種の危機管理対策だという解釈も成り立つ。

 「未来に向けて、人類が適応するために必要なことだと考える」とJohnson氏は述べている。そうしなければ、人類は適応能力の点でコンピュータに劣ることになり、取り残されてしまいかねない、というのである。


Noel Sharkey氏
David Jones - PA Images/Getty

 誰もが超知性を恐るべき存在と考えたり、そもそも実現性のある見通しとして捉えたりしているわけではない。英国のシェフィールド大学で人工知能、ロボット工学、パブリックエンゲージメントの名誉教授を務めるNoel Sharkey氏によれば、人間と同等の知性を持つマシンなど、まだ遠くはるかな夢にすぎず、今は基礎的なことを正しく行うことに専念すべきだという。

 12月に実施したインタビューで、Sharkey氏はこう答えている。「私に言わせれば、超知性に目を向けるというのは、高速道路を走っているときに遠くを見すぎて前方の車に衝突してしまうようなものだ」

 しかし、こうした考え方も、人を支援するという試みを妨げてはいない。

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