荷物を“撮る”だけで届けてくれるオランダの宅配サービス「Sprynter」--梱包・郵送が不要

 インターネットショッピングが当たり前になっている今、最も過熱している周辺ビジネスといえば「配送サービス」である。

 日本ではアマゾンが提供する1時間配送「Amazon Prime Now」が誕生して久しいが、2016年に最短2時間30分の「ヨドバシエクストリーム」、2017年にドン・キホーテの最短58分の「マジカプレミアムナウ」などが登場。一遍通りの配送から“即配“へと様相を呈しており、競争が激化するにつれ、配達員の過酷な労働環境などが問題視されるようになっている。

 日本よりも出遅れてはいるものの、オランダでもインターネットショッピングはうなぎのぼりに成長している。Eコマースのリサーチ機関 Thuiswinkelによると、オンラインは2017年前半で全体の購入の23%(前年同期比で21%)を占めるまでになった。

 オランダにおける宅配業の主要プレイヤーは、PostNL(郵便局)、Sanddなどのローカル企業、UPS、DHLなどのインターナショナル企業である。PostNLは2017年夏、オランダの老舗百貨店De Bijenkorfと提携して、De Bijenkorfのオンラインサイトで購入した商品を届ける日付と時間を指定できるサービスを開始。PostNLのアプリを使えば、日付や受取場所の変更もできる。


出典:「PostNL

 また、2016年11月からparcel and letterマシーンという特別な郵便ポストの実験が開始された。荷物および手紙の7日/24時間受取、郵送が可能なボックスで、利用者はSMSあるいはEメールで受け取ったコードでロッカーを開ける仕組みになっている。試運転は最初の実験地のAlmereからLimburgに拡大、都市から離れた辺地で有効性の調査が行われている。

荷物を撮るだけでピックアップしてくれる「Sprynter」

 このように荷物を「受け取る側」では日本と比較すると特に目新しいサービスがないのに対し、荷物を「送る側」ではイノベーティブなサービスがスタートアップによって生まれている。Sprynter社がアムステルダムで展開している、送る側の負担を減らすことを主眼にしたサービスである。対象者は、オンラインショッピングを運営している会社や個人、オンラインショッピング好きの消費者などだ。


Sprynter

 利用方法は、まずSprynterアプリ(現在はiOSのみ)で送付したい品物を撮影して送り、ピックアップを依頼。すると、Sprynterのスタッフが依頼元に赴き品物をピックアップ、Sprynterの倉庫にて包装する。その後、「多少日数がかかっても低コスト」「なるべく早く郵送」など、依頼者の要望に合わせてSprynterが配達会社を選んで荷物を届ける。そして、依頼者はインボイスと追跡番号をメールで受け取る。

 同サービスに限らず、オランダ国内で2016年に配送された荷物の数は約2.2億個。そのうちの60%はオンラインショップで、ウェブ購入の返品率が13%という状況だ。品物を梱包し、配達先に出向いて郵送するという一連の手続きは、軽く考えがちだが手間も時間もかかる。

 そんな手間を一気に引き受けるという宅配ビジネスのニッチをついたサービスに見えるが、上述の荷物の数からすれば決して小さなマーケットではないともいえる。配送準備はオンラインショッピングの重要な業務であることは変わらないし、梱包や郵送にかかる時間は費用対効果の観点からも無視できない領域なはずである。

 2018年にはAndroidアプリを公開するほか、展開する都市もデンハーグ、ロッテルダム、ユトレヒトに拡大する予定。送る側と受け取る側が同じ市内にいる場合、同日ピックアップ&デリバリーも提供するという。自転車道もしっかりと整備されていて、各都市の規模がそれほど大きくないオランダでは、このような小回りがきくサービスは有効に働くだろう。

脱「お客様は神様」が商機の発掘につながることも

 日本では日付や時間指定はおろか、再配達も当たり前のサービスとなっている。しかし、オランダではそうではない。

 現時点では受け取り人が不在の場合は、配達員が荷物を近所に預けるか、受取人が郵便局に取りに行く、あるいは宅配業者が提携しているスーパーなどでのピックアップとなる。荷物の取り扱いの粗雑さにはオランダ人でも文句が出ることがあるが、ピックアップに関して不満を漏らしているのは主に在オランダ日本人で、現地の人はごく当たり前に受けとめているようだ。

 単に日本の宅配便のようなサービスを知らないから、というわけでもなさそうだ。なぜなら、オランダの感覚では「お客様は神様」ではないからだ。だからこそ、Sprynterのように荷物を「送る側」の利便性に視点が向くのだろう。

 RFIDタグによって発送処理の効率は飛躍的に上がった。だからこそ即配も可能になっている。ドローンでの配達の実験が始まっているが、現在においては最終的には荷物を届けるのは人である。

 もっと早く、もっと安くと、“お客様”の要望に応えようとするがために片方にしわ寄せがいってしまっては業界全体が疲弊してしまうことにもなりかねない。商品を受け取る顧客のみならず、商品を「送る側」でビジネス機会を探るのも、今後ますます盛り上がっていくEコマース産業をサポートすることになるのではないだろうか。

(編集協力:Livit 岡徳之)

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