もう一度、ANA創業時のイノベーションを--トランスコスモスとベンチャー支援する狙い - (page 2)

稲田氏 : そもそも、1952年にさかのぼるANA(の前身となる日本ヘリコプター輸送と極東航空の2社)の創設が、ベンチャーマインドから生まれたものだったという歴史があります。私たちは2機のヘリコプターからビジネスを始めましたが、そこから定期航空運送事業を開始するまでの間に尽力した先人たちは、まさに今のベンチャー企業と同じだった。そういう創業時からのDNAが引き継がれて今のANAがあり、そういうマインドを持った人たちが集まる企業であると考えています。

 ただ、グループがここまで大きくなってくると、変革をスピード感を持って進めることが難しくなるという一面も出てきます。その中で、エアライン事業に特化したドメインに加えて、エアライン事業以外の新しいドメインにチャレンジする時期に来ていると思いますし、そうした考えに共感した仲間たちが(ANA Xで)強く推進しています。ここからもう一度、ANA創業時の“イノベーションを起こそう”という文化が大きな潮流になればいいと思っています。


「もう一度、ANA創業時の“イノベーションを起こそう”という文化を作りたい」と稲田氏

――社員は社内公募したのでしょうか。また人事異動などで組織したのでしょうか。

稲田氏 : 社員は50名ほどですが両方含まれます。ANA Xの母体はANAのマーケティング部門に組織されたロイヤリティマーケティング部という部門を分社化したものなのですが、並行して社内公募も行い、新しいチャレンジをしたいという志を持った社員が数多く集まっています。

――もうすぐANA Xの創立から1年が経ちますが、社内外の反応はいかがでしょうか。

稲田氏 : いろいろなご意見をいただいています。共感いただくこともあれば、批判をいただくこともあります。ただ、そうしたさまざまな意見が生まれる状態が健全だと考えています。その中で、多くのディスカッションが生まれる場を地道に作っていくことが重要だと考えています。

――ANAグループでは幅広い事業に投資をしていると思いますが、そのジャッジメントはどのような基準で行われているのでしょうか。

稲田氏 : 投資する領域によって基準は大きく異なりますが、ひとつは中核であるエアライン事業、そしてエアラインを含む旅行事業全般に幅を持たせることが期待できるビジネスに投資をすることが多い傾向にあります。また、私たちにはもともと創業時のベンチャー精神がありますので、これからスタートアップを目指す企業を応援していくというマインドは強いと思います。

 これは投資とは異なりますが、過去にはANAの予約アプリの企画・開発で当時まだ創業期だったチームラボと協業させてもらったこともあります。デジタル領域の制作業務などでベンチャーと協業することは多いですね。

――投資と協業という両輪でベンチャー企業とのパートナーシップを進めているということですね。

稲田氏 : これはANA Xという社名の「X」の意味とも関係しているのですが、この「X」には“掛け算”という意味や“未知数”という意味を持たせています。つまり、パートナーとの協業は足し算ではなく掛け算であり、両社の強みによってそのシナジーを増幅させることができると信じています。私たち1社ではできないことが、ベンチャー企業を含む多くのパートナーシップによって実現し、世の中に付加価値を提供できると考えています。

亀井氏 : この「X」という言葉は、今回IVS Connect Produced by DEC Studioで打ち出している課題テーマとも関係します。今回の課題は「ANAマイレージクラブなどを活用した次世代ビジネスモデルの構築」なのですが、そこには“解くべき方程式”というものを提示して、ANAのアセット、スマートデバイス、そして斬新な視点によるソリューションを掛け合わせることで、新しい顧客体験を創出するという命題を与えました。こうしたテーマも、ANA Xの企業理念を踏まえて考案しています。

 今回のテーマでは、マイレージプログラムという特徴的なサービスに、今までにない価値を生み出せるようなアイデアの原石を見つけ出し、ANA Xとトランスコスモスで磨いていければベンチャー企業にも喜んでもらえるのではないかと考えています。そのために、他のアクセラレータプログラムと異なる細かいメンタリングをしていきたいと考えています。ピッチに出場する企業には開催後の事業計画の立案のサポートなども予定しており、私たちの期待を下支えする支援を実行していきたいですね。


稲田氏 : 今回、私たちはANA Xとして初めてアクセラレータプログラムに参画します。今回の取り組みを通じて私たち自身も多くのことを学びたいと考えています。支援する企業自身もプログラムのなかで一緒に成長できればいいですね。

――今回のテーマであるマイレージは、昔と今で顧客にとっての価値も変化しているのではないでしょうか。

稲田氏 : そうですね。マイレージを巡る環境は(マイレージクラブ開始当時から)いろいろと変わっています。世の中にさまざまなポイントプログラムが台頭して独自の経済圏を構築しようとしていますが、私たちはマイレージが文字通りの文脈(=エアラインをお得に使うためのポイントサービス)にとどまるものではないと考えています。つまり、ANAグループはこれから構築していくエコシステムのなかで、顧客にさまざまな付加価値を提供していきます。その潤滑油としてマイレージになるのです。マイレージの価値が新しいステージに進化するものと考えています。

 一般的なポイントサービスでは1ポイントは1円と金銭換算されますが、私たちは1マイルに金銭的な価値だけでなく、心の豊かさや喜びなどの付加価値を提供したいと考えています。今後のビジネスでも単にお得だということだけではない付加価値を重視していきたいですね。今度のアクセラレータプログラムでも、そうした観点で新しい顧客体験の創出を期待したいです。

 私たちANAグループが、日本のマーケティングを変革したり、世界をより良くしたいと考えた時、新しい芽=ベンチャー企業を育てたり、企業規模の大小に関係なく優れた技術やアイデアを持つ企業とパートナーシップを構築して一緒にやっていくという姿勢が、これからの時代に非常に重要になってくると思います。今回のプログラムは、まさにこうした姿勢を具現化したものだと考えています。

 まずは、エアライン事業や旅行事業の中で、マイレージにどのような付加価値を生み出せるかというのがひとつのテーマになります。その次には、FinTechなどの領域のベンチャー企業とも協業しながら、お客様ひとりひとりのライフスタイルに寄り添う形で、いかにマイレージが価値を生み出せるかというテーマに挑戦したいと思います。

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