日本のアーケードVRの課題としてまず挙がったのは「コスト」。安全性の確保もさることながら、スタッフが利用者へヘッドマウントディスプレイ(HMD)など機器の装着を手伝うほか、顔に接着する紙製のマスクも配布し、衛生面にも配慮した取り組みも行っているところが多い。こういった日本のアーケードVR施設のホスピタリティの高さは、海外では見られないものであり、小山氏によれば、視察に訪れた台湾の企業が取り入るほどだったという。速水氏も日本ではサービス要求が高いがゆえ、そのニーズにあわせて進化している部分だと説明。そしてそれは、人件費などのコストがかさむことの裏返しでもある。
石井氏によれば、アドアーズ渋谷店の1~3階は従来型のゲームセンターとして運営してしており、フロアあたりのスタッフは2~3人であるところ、同じ坪面積であるVR PARK TOKYOでは十数人を配置していると説明。渋谷が繁華街にあることを踏まえると、面積に対する単価や効率もシビアに考えてしまう部分でもあるという。それでもVR施設に乗り出したのは「新しい市場を開拓するには、最初から効率化を考えると踏み出せない。市場に入ってから考える部分」と語る。
海外からの利用者に対する対応としても、小山氏は英語と中国語を話せるスタッフを数人程度でも必ず常駐していると説明。石井氏も、定型で決まっている案内の部分では英語で説明できるように教育しているという。速水氏は、中国において英語対応をしているところはまずないと指摘。多言語に対応しようとする配慮からも日本のホスピタリティの高さが現れていると語る。
コストについては、現状HMDを初めて装着するという利用者が多いため、HMDの普及やリピーターの増加によって脱着の作業を利用者へ完全に一任できるような状況になれば、低減できるところがあると小山氏は指摘。さらに技術進化によって、軽量かつ無線型HMDが登場するようになれば、並んでいる間に装着してもらうだけでも違うという。また装着しっぱなしの状態まで進めば、店舗の装飾が不要となったり、MRによって映像を重ね合わせて装飾のかわりにするといった活用方法もあると語った。
料金体系についても話題が及んだ。小山氏はお台場で展開する際、アーケードゲームの“100円玉”基準の感覚があるため、VRアクティビティの価格を1000円近くまで上げることは「想像も付かない世界」と表現したが、定着している感覚があるという。
VR PARK TOKYOでは1アトラクションに対してではなく、一定の時間内で遊び放題という時間定額制を敷いている。VR施設における時間定額制は、登壇者が「海外でも聞いたことがない」と口をそろえるほど珍しいシステムだという。この理由について石井氏は、プロジェクトの目的として“ゲームセンターの活性化”があり、併設して展開する以上「下のフロアは100円で遊べて、上のフロアだと800円かかるというのはマイナスイメージになる」とし、“全く別の世界”であることを示す意味での施策だったことを明かした。
一方の速水氏は、ゲームセンター目線では高いものの、テーマパーク目線として見るとアトラクションよりも安いと語る。特にアトラクションは一点ものであることが多く、どうしてもコストが高くなる。そのため、量産効果による製品原価などが下がれば、必然的にコストも下がると指摘する。
それを踏まえて石井氏は、そのためにもロケーションVRの店舗数を増やしていく必要があり、VR市場の活性化が必要だとした。また石井氏はセッションの最後で、VR PARK TOKYOに次ぐ2店舗目を準備中であることも明かした。また小山氏からは、「VR ZONE Portal」という形で、小規模店舗を国内外に向け展開することも説明した。
次に課題として挙がったのが「リピート」。前述のように、VR PARK TOKYOの9割が初めて来店しているということは、裏を返すとリピーターが1割という状態。VR ZONE SHINJUKUでも来場者アンケートでは「PlayStation VRの存在を知らないという人が9割」と小山氏が語るほど“VRは初めて”というユーザーが多い。それだけに、現状では初めて体験するときの“驚き”を追及したコンテンツが求められているという。
一方で、驚きの体験というのは繰り返すと薄れるもの。速水氏からは、何回遊んでも楽しいというような、リピート性を考慮したものが求められるとし、シフトする時期が来ると見解を示す。小山氏からは長年アーケードゲームの開発に携わってきた立場から、リピート性のあるコンテンツを開発するのに「開発費の7~8割を使う」というほど手間のかかることだと指摘。VRが黎明期の段階でそこまで踏み込むのは難しかったと振り返る。それでももう一度やりたいと思わせるようにと、VRアクティビティには「成功」と「失敗」の概念だけは入れているという。
今後の取り組みとしては、まず速水氏が、やればやるほど面白いというリピート性の高いeスポーツ系VRコンテンツの開発を進めていることを明かし、「近いうちに発表できるのでは」という。また多くの場所にVRを展開、そしてそれに見合うコンテンツを市場に投入したいとした。小山氏は11月からアーケードゲーム「機動戦士ガンダム 戦場の絆」のVR版となる「機動戦士ガンダム 戦場の絆VR PROTOTYPE Ver.」の試験運用を予定。単にHMD対応というだけではない“VRならでは”の体験を提供し、戦場の絆の価値を再度高めたいとした。
課題として「13歳問題」にも触れられた。これは13歳未満の子どもが2眼タイプのVR機器を使った立体視コンテンツを視聴すると、斜視などの悪影響を与える危険性があるとされる問題。この点については、特に小山氏が「何とかしたい」と主張。13歳未満が利用できないということは、子ども連れのファミリーが楽しめないことを意味しており、足が遠のくことに直結。施設運営としては大きなチャンスロスだとしている。
安藤氏はロケーションベースVR協会として取り組んでいることに触れつつ、「この点をここまで問題視しているのは日本だけ。海外では子どもが遊んでいる現状がある」と指摘。時間とともに規格化していくものとし、また年内には何らかのアクションを起こしたいとした。
そして「VR酔い」も挙がった。登壇者は口をそろえて、車酔いと同様に個人に依存しているところがあるため、どこまで低減し割り切るかのせめぎあいがあること、そして一度酔ったからもうやらないというユーザーも少なからず存在し、ネガティブキャンペーンにつながるため、最小化することが求められるという。
小山氏は「エヴァンゲリオン VR The 魂の座」において、開発期間の70%を酔い対策に費やしたという。また「(使徒と戦う)地上部分では本当の動きができていない」と表現するように、酔いやすいジャンプなどの行動は封印し、フリーで移動する方法は裏技的に残しているものの、説明では教えない形にしたという。また「VR-ATシミュレーター 装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」はスコープドッグに乗り込んで自由に操作するという、酔う要素がかなり多いVRアクティビティだとしたが、「ド近眼」と表現するように被写界深度を狭くし、あまり見えない状態にして対処したと説明する。
安藤氏は、FPS(ファーストパーソン・シューティング)ゲームが出始めた当初、酔いが問題視されていたものの、ゲーマー側が慣れてしまったために、対策よりもゲームの面白さに注力していく流れができたと振り返る。これに触れ、コンシューマ向けVR業界は、酔いの対策以上に面白さのほうに向き始めているという。もっとも石井氏は、ロケーションVRは、ファーストインプレッションでコンテンツや店舗、強いてはVRそのものの評価が決まってしまう以上、酔い対策は無視できないところと指摘した。
安藤氏は総括として「日本ほど人件費や坪単価に対してシビアな国はない。ホスピタリティの高さも醸成されており先進的な部分はある。有力IPもありマッチングもいい。明確に差別化されており、明るい要素はある」と語り、速水氏が付け加える形で「スピードとコストは負けている部分。今でも日本のアーケードVRは通用しているが、爆発的なものにするためには改善する必要がある。課題を乗り越えれば、世界からより求められるようになる」とまとめた。
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