スマートフォン端末を開発する中国のファーウェイが、実は世界中で「パブリックセーフティ」を推進する企業であることをご存知だろうか。10月に来日していた同社のGlobal Chief Public Safety Expertであるホン・エン・コー氏に、ファーウェイのパブリックセーフティに関する取り組みを聞いた。
パブリックセーフティという言葉は、まだ日本ではあまり馴染みがないかもしれない。直訳すれば「公共安全」で、広義では犯罪や災害の防止、対処をはじめとする治安維持・改善、防災に向けた一連の活動を指す。
ユニークなのはコー氏の経歴だ。同氏はシンガポール警察で保安局技術総長を拝任し、次にオラクルでおよそ16年間パブリックセーフティの責任者を務めた(入社当時はサン・マイクロシステムズ)。2015年にファーウェイから入社を請われたものの、当時は「ファーウェイが何をやっているのか、自分に何ができるのかわからなかった」ことから、一度はその誘いを断ったという。
しかし、長期間変わることのない熱心な勧誘と、実際に深センの本社を訪れたことで、ファーウェイが「IT、データセンタ、ビッグデータなど、パブリックセーフティにかかわる技術をすべて持っている」ことを理解し、2016年に入社し現職に就いた。最初にファーウェイに声を掛けられてから実に7カ月後のことだった。
現在はファーウェイが手がけるパブリックセーフティのうち、産業分野におけるグローバルリーダーとして活動している。同社でパブリックセーフティにかかわるエキスパートは100名以上。コー氏を含め8名のリーダーが在籍しており、英国警察や王立カナダ警察にいた人物、モトローラで警察無線システムに携わった人物など、いずれも最前線で公共安全に関わってきたそうそうたるメンバーで構成されている。
ファーウェイが取り組むパブリックセーフティは、大きく4つのステップに分かれるという。(1)社会的な仕組みや環境作りによる犯罪などの「防止」、(2)防犯カメラなどによる犯罪行為などの「探知」、(3)事後の警察・消防・救急への通報と派遣による「対応」、(4)現場の原状回復や救援といった「復旧」だ。その後は発生原因や対処の実績などを記録・学習し、必要に応じて法律面の整備検討などを行い、最初の「防止」に役立てるというサイクルになる。
パブリックセーフティに似た言葉に「セーフシティ」という概念もある。これは上記のうち「探知」と「対応」の2つをカバーするものだ。つまり、パブリックセーフティはセーフシティを含む、より広い範囲を網羅するものと言える。
コー氏が「ファーウェイはパブリックセーフティにかかわる技術をすべて持っている」と話していたように、同氏は現職に就任してからわずか1年強の期間で、同社の持つあらゆるリソース、各分野のエキスパートの知見を活用して、広範な領域でのパブリックセーフティを実現する新たなソリューションを開発したという。それが、Collaborative Public Safety Solutionsと呼ぶソリューションパッケージ「C-C4ISR」だ。
C4ISRは、「Command(指揮)」「Control(統制)」「Communications(通信)」「Computers(コンピュータ)」と、「情報(Intelligence)」「監視(Surveillance)」「偵察(Reconnaissance)」の頭文字をつなげたもので、パブリックセーフティのみならず、交通・社会環境における安全確保のための要素を示す概念として広く通用するものだ。ファーウェイの場合はこれに「Collaborative」を意味する「C」がつく。Collaborativeとはすなわち、組織同士や部門間の連携を可能にすることを表している。
C-C4ISRは、3つのレイヤからなる。1つ目は「デバイス」で、ここにはファーウェイが開発を手がけるチップを搭載するサードパーティの多様なセンサ、カメラ、通信機器などが含まれる。2つ目は「パイプ(コネクション)」で、これも同社が得意とするLTEなどのネットワーク技術が生かされる。3つ目は「クラウド」。ビッグデータやAIをはじめとするさまざまな処理をサーバサイドで行う「オール・クラウド」戦略を掲げる同社としては、クラウドは今や事業の軸とも言えるものだ。
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