膨大な紙のカタログから必要なものを選び、それを取り扱っている商社・問屋を調べ、在庫・納期を確認後、発注し現場に届けてもらう。建築現場において、当たり前とされていた一連の建材発注が変わろうとしている。野原ホールディングスの社内カンパニーであるWEBカンパニーは、プロ向け建材通販サイト「アウンワークス」を2015年にスタート。FAX、電話が主流だった、建材の流通にネット通販を取り入れた。
「この業界は建材メーカー側、それを扱う工事事業者側ともに関わる会社、人が多く、それを複雑な流通の仕組みで支えていた。ここをもっと効率的にできないかと思った」とWEBカンパニー社長の安部敏氏は、アウンワークスの立ち上げ理由を説明する。
建材の発注は現在でも電話やFAX、対面でのやりとりが主流。工務店は、カタログから該当建材を選び、その型番や数量を記入、建材商社にFAXする。商社ではその内容をPCに打ち込み、メーカーごとに異なる注文書にプリントアウト。それをメーカーにFAXして発注が完了する流れだ。
それらのやりとりは手間暇がかかり、デジタル化もほとんどされていない。「ウェブの表現技術が上がった今、この多くはウェブに置き換えられる。今までかかっていた手間暇を効率化した」(安部氏)ことがアウンワークスの役割だ。
アウンワークスの母体である野原ホールディングスは、1953年に建築材料販売を開始した、この業界の老舗。建材メーカーに太いパイプを持つとともに、長く付き合ってきた、専門工事事業者を顧客として抱える。メーカー、工事事業者の双方に信頼を得ていることが、ネット通販の重要なベースだ。
「建築現場に欠かせない建材は、型番違いや到着の遅れなどはあってはならないこと。工事事業者の方が一番不安に感じるのはきちんと届くかどうか」と安部氏は、ネット通販のハードルを話す。
不安を解消するためアウンワークスでは、チャット機能を搭載。対応するのは野原ホールディングスで建材販売の受発注を務めたベテラン勢だ。営業時間外もメールにより問い合わせができる環境を整える。
安部氏は「この業界で電話でのやりとりが根強く残っているのは、発注側と受注側の信頼関係が大きい。クリック1つで購入できるネット通販はコミュニケーションの場がなく、不安に感じてしまうだろうと思った。チャットはその不安解消にかなり有用だったと思う。また、チャットを担当するメンバーは建材や工事のことを熟知しているため、お客様の“困りごと”を見つけやすい。この業界に長く携わるプロフェッショナルが対応することで、電話や対面と同じくらいのやりとりを提供できている」と、独自の手法を明かす。
例えば、部品をセットで使用する建材を受注したとき、受注リストで部品が漏れていると「●●の部品は」と顧客に問いかけ、発注ミスを減らしている。この対応ができるのはプロだからこそ。受発注の手間は効率化しても、やりとりの部分は対面と変わらないサポートを提供する。
プロの現場で使われるネット通販ながら、ポイント制の導入や商品レビューなど、一般的なネット通販で使われている手法を取り入れているのもアウンワークスの特徴だ。
ポイント導入の最大の目的はリピート顧客の獲得。「継続的に購入してもらうことが、私たちの狙い。そのため商品の価格を下げることも一つの手だが、ポイントを貯め、お客様自身のタイミングでポイントを使っていただき、価格をコントロールしてもらえると思った」(安部氏)と説明する。
BtoBビジネスを長く手掛けてきた野原ホールディングスだが、ここ数年は新しいことへのチャレンジが社内目標の1つ。そのため、中途採用を進めるなど、人材の確保にも積極的だという。
新たな人材の流入はビジネスにも影響を与えている。「ベンチャー出身の社員からの提案で、BtoCで当たり前なアイデアも取り入れている。BtoCでは当たり前でも、私たちにとっては新たな試みになる。そうした取り組みを増やすことで、サービスの充実を図っている」(安部氏)。
一見すると、一般的な通販サイトにも見えるアウンワークスだが、そのこだわりはシンプルさだ。「DIYなどの建材を扱うサイトでは、壁紙の貼り方の動画があったり、使い方を紹介する画像を多用したりしているが、アウンワークスではそういったコンテンツは必要ない。そこに労力を割かず、あくまで商品紹介を徹底している。商品の見つけやすさ、特定のしやすさを優先するため、何かをするのではなく、あえてしないという方法をとっている」(安部氏)とのこと。
逆に、こういった使い方がある、別の使い方ができる、新製品が出たなどの、購入者にとって重要な情報は、積極的に掲載しているという。
そのほか、支払いで掛け払いを採用したり、工事に関わる書類を手配できるようにしたり、現場向きの仕様を数多く採用。見積もり対応など「建築現場で普通に必要なこと」(安部氏)を機能として採用する。
今後のミッションはスマホ化だ。「PCを飛び越えてスマートフォンを使う人が増えている。そうした人に向け、すでにスマホ対応もしているが、もっと使いやすさを追求したネット通販にしていきたい。また、建築業界の情報と経験を集約できる場として提供したいので、レビューの件数を増やすことも目標。お客様が商品を選ぶ際に、参考にできたり、比較がしやすかったり、そういう部分に貢献していきたい」と、安部氏はこれからを見据える。
一方で、建築業界全体の課題としてあるのがデジタル化だ。アウンワークスでの受注まではデジタル化されているが、その先となる建材メーカーへの発注は現時点ではFAX。ペーパーレスでPCからFAXできる仕組みを整えているとはいえ、デジタル化していない状態だ。安部氏は「業界全体のIT化を進めていきたい。そこを切り開いていくのは私たちの役目だと感じている」と話す。
アウンワークスの開始から約2年。野原ホールディングスでは、従来通り電話や対面による建材の受発注をしているが、顧客は重複しておらず、アウンワークスは新たな顧客獲得にも成功している。
安部氏は「受注がデータ化、デジタル化されていけば、お客様ひとりひとりのニーズが見えてきて、サイトを開くだけで、欲しい商品が自動的に表示されたり、レコメンデーションができたりするようになってくる。こうしたお客様に寄り添うサービスを展開して、この業界のデジタル化を進めていきたい」とコメントした。
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