「テクノロジで不動産のあり方を変える」をテーマに、AIなどを活用し業務効率を改善する仕組みを提供しているイタンジ。2012年の設立から、不動産仲介会社向けの自動追客システム「ノマドクラウド」、物件確認の自動応答システム「ぶっかくん」、内見予約受付の自動化システム「内見予約くん」など、不動産の業務に関わるあらゆる場面に役立つツールを生み出している。
当たり前とされてきた電話での物件確認を自動化したり、接客の中にAIを取り入れたりと、イタンジが取り組んでいるのは今までのやり方に縛られない、新たな不動産業だ。FAXや電話などが多用されている現場に受け入れられるデジタル化ツールを生み出す秘訣から、ホテル業務に着手したという新たな展開まで、代表取締役CEOの伊藤嘉盛氏に聞いた。
--仲介会社や管理会社、さらには顧客向けと幅広いシーンで使えるデジタル化ツールを用意していらっしゃいますね。
大家さんから入居者、管理会社、仲介会社と、不動産業には多くのプレーヤーが関わっています。その煩雑で細かいやりとりをデジタル化し、自動化することが狙いです。
管理会社と仲介会社の物件確認1つとっても、データベースが確認しづらく、不動産業のプロでも正しい情報を得にくいのが現状です。正しい物件情報を取得するには、電話での確認がどうしても必要になる。この部分を自動化しようとはじめたのが、ぶっかくんです。同様に、内見予約の受付、管理を自動化したものが内見予約くんになります。
ノマドクラウドは、仲介会社がお客様とやりとりする仕組みで、お客様からの問い合わせの半分程度をAIがチャットで返信するサービスです。スマートフォンの利用時間を調べて見ると、平均23時ごろがピークで、その時間に問い合わせがきてもAIを活用することで対応できます。お客様が知りたいことをすぐに答えられる仕組みとして作りました。
--管理会社、仲介会社、お客様とそれぞれのポイントで使えるツールを提供しているんですね。デジタル化に対して不動産会社の反応はいかがですか。
ぶっかくん、内見予約くん、ノマドクラウドと不動産取引の最初から最後まで、完結できることを目指しています。ノマドクラウドの価値は、今まであきらめていたお客様を成約につなげられることです。100人の内、電話がつながり、来店してくれたお客様が10人いたとしたら、残りの90人はメールを送っても返信がない、電話をかけても出られないという方だったんですね。その90人を80人に減らし、20人を成約につなげる、ここに効果があるシステムだと思っています。
例えば、間取りのちょっとしたことを聞きたくても、来店するのは面倒だし時間もないと感じられるお客様がいらっしゃいます。そうした人たちにはチャットでやりとりしてもらいます。「来店して欲しい」とする不動産会社側の要望と、「来店するのは面倒」と感じているお客様のニーズの不一致をスマートフォンでの接客で汲み取ったのがノマドクラウドです。
来店しなかったお客様は成約できないとあきらめていましたが、その中からさらにニーズを掘り起こすことで、成約につながる。今まであきらめていた層をプラスオンできるため、不動産会社側からの抵抗などは感じませんね。
--これらのサービスを導入する会社の規模はどのくらいですか。
多店舗展開をしている大手がほとんどです。その理由は、業務効率化の側面が高いからです。2人でやっていたことが1人でできるような効率化を提供できますが、2〜3人の会社では、そのほかの業務もあり、なかなか効果を実感しづらいんですね。業務が細分化されている大手であれば、今までの人数の半分で仕事を回せるようになり、そのうちの半分は営業に注力できる、といったリソースの移転も可能になります。
--システム導入に対するハードルを感じることはありませんか。
不動産業はほかの業種に比べて一事業所辺りの人数が少なく、その分コスト面は厳しいですし、IT化は進みにくい業界だと思っています。総務省がICT産業の国際競争力の強化に向けた測定指標として「ICTスコア」というのを公表していますが、不動産業は下から数えた方が早いくらいですから。
その中で導入をしてもらうには、 今まで成約に結びつかなかったお客様にアプローチすることで、来店数が増えるなど、きちんと数字として効果があらわれることが重要です。ITシステムの導入は、コストもかかって、データ入力も増えてみたいなイメージを持っていらっしゃる方も中にはいますから、ちゃんと使えば成果が上がることを示せなければいけません。ノマドクラウドは解約率も非常に低いため、そうした効果を実感してもらいやすいサービスだと考えています。
ただ、ある程度のバイヤスはかかっているとは思いますが、私たちがおつきあいをしている不動産会社の方々は情報感度が高く、かなり積極的にIT化を進められていらっしゃる方が多いですね。
--ぶっかくんや内見予約くんは、業務効率化に結びつくシステムですね。
ぶっかくんを導入して200人規模の会社の残業がゼロになるとか、大手に導入することによって効果が一気に出るケースがあります。内見予約くんに関しては、時短に大きくつながっています。今までの内見予約はファクスでやりとりしていて、それだけで15分はかかってしまう。外出先であればファクスを探すだけでも一苦労です。これが1分で終了しますから、その積み重ねを考えれば、業務はかなり減りますよね。
ただ、どこか1社だけがIT化しても、業務効率には結びつきにくいため、業界全体でIT化を進めていかなければなりません。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス