パナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーらが、東京・渋谷にオープンしたワークスペース「100BANCH」が開始から約3カ月を迎え、10月6日にイベントを開催した。元パナソニックで現Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏とパナソニックコーポレート戦略本部 経営企画部長村瀬恭通氏が「次の100年の価値とは何か」をテーマにトークセッションをした。
岩佐氏は、2007年にパナソニックを退職し、2008年にCerevoを立ち上げた。一方、村瀬氏はパナソニックの経営企画部長で、100BANCHを担当する。トークセッションは「パナソニックにとっての100BANCHの意義とは何か」からスタートした。
村瀬氏は「危機感からきている。パナソニックはハードメーカーで工業化した会社。均一化したもの大量に作り、販売することでやってきた。これまでの100年はそれでやってきたが、次の100年はこれだけでやっていけるのか。私たちの価値観だけでやっていけるのか、と考えた」と、100BANCH立ち上げの理由を話した。
100BANCHは、35歳未満の若手リーダーが推進するプロジェクトを支援するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」を設け、100のプロジェクトを生み出すことを目的としている。岩佐氏をはじめとする21人のメンターがプロジェクトを採択しており、選ばれたプロジェクトメンバーはワークスペースを自由に使える。
岩佐氏は、大企業とスタートアップのコラボレーションについて「スタートアップは、クイック&ダーティが得意で、大企業はそれが苦手。それはなぜかと考えると、大企業はスピードに対する評価がされにくいから。もちろん評価はされるが、問題が出たときの失点が大きい。信用問題になるので、失点が大きい理由もわかる。そういった部分を補える点でもコラボレーションが面白いと思う」とコメント。
村瀬氏は「100BANCHは約8カ月というスピードで立ち上げた。これはパナソニックだけではできないこと。同様のことがテスラモーターズとのコラボレーションでも言え、こちらは約1年で電池工場を立ち上げた」とスピード力を評価。「以前は同じ価値観で生きることが非常に良いとされていたが、今は違う。パナソニックは均一化することにこだわってきた企業文化があったが、外と触れ合うことで違う価値観を築ける」と、コラボレーションの効果を話した。
岩佐氏は「もっと100BANCHのような場所があればいいと思う一方、パナソニックはベンチャーを買収して、中に引き込んだ事例がない」と指摘。それに対して村瀬氏は「コラボの形はいろいろある。買収した瞬間にベンチャーの良さがなくなってしまっては意味がない。また、次の100年はモノだけではないとすれば、買収するとしてもハードを作っているところではなく、ソフトウェアを作っている会社になるかもしれない」と考えを示した。
GARAGE Programでの支援は、1つのプロジェクトに対し3カ月をめどにしており、メンターが延長を希望すれば、そのまま続けることも可能。7月7日のスタートから3カ月が経ち、”卒業”を迎えるプロジェクトも出てきた。
メンターの役割も担う岩佐氏は「もう少しパナソニックの現場の人に入ってもらえたら、進むプロジェクトはたくさんあると思う。部品のリストやメンテナンスなどで悩んでいるスタートアップもいる。そういう部分はパナソニックの人がいれば、一気に解決できるし、パナソニックの人にとってもいい刺激を受けると思う」とリクエスト。
村瀬氏も「まさにそう思う。実際に何人かはプロジェクトに参加している。ただ強制的に入ってもらうのではなく、社員自らが興味を持ち、プロジェクトに情熱をもって参加することが大事」とした。
岩佐氏はパナソニック時代、社内にコラボレーションスペースを設置した経験を持つ。その経緯について問われると「2006年ごろ、オフィスの空いたスペースを活用して、部署内の誰もが使える場所を作った。机に向かって発想できることは限られていて、もう少しリラックスして仕事がしたかった」と当時を振り返る。
さらに「当時は、話題の他社製品を使ったことがない人が社内にいて、その現状は問題意識としてあった。それを解消するためにも、最新のゲーム機や他社製品などを置いていた」とコメント。会場から、新スペースの設置をなぜ実現できたのかと質問が飛ぶと「わがままを言い続けるのは大事(笑)。あとは人材教育に生きる、事業に生かせるなど、人材の育成につながることをアピールした」と当時の状況を明かした。
「今後、変えていきたいことは何か」というテーマについては、岩佐氏は「変えていきたいことはたくさんある。今考えているのはすべての人が同じような生活を送っていることを変えたい。例えば冷蔵庫は各家庭にあることが当たり前だが、持ってない人がいてもいい。全く違う服を着ている人がいてもいい。そういう時代にしていきたい。もう一つやりたいこととしては、人体の拡張性を向上していきたい。例えば視力が0.1を切っていると、時代によっては歩くのさえ難しいと思う。けれど、レンズをつけるだけで、目が見えるようになる。これと同様に人間の性能を上げていきたい」と思いを話した。
村瀬氏は「100年後と考えるとかなり大きく変わっているのだと思う。日本を見れば、高齢化社会、過疎化などが問題になっている。普通に暮らす人々がこれらの問題にどう向き合っていけるか、どうインフラをつないでいくかを真剣に考えなければいけない。今後の100年を変えていくには、今を変えていかなければ、将来は決して変わらない」と締めた。
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