ただし、Microsoftの88 ACRESプロジェクトは自社ビルだから実行しやすかった、と清水氏は話す。新築ビルならまだしも、既存のビルには追加の設備投資がまず難しい。投資によるリターンが得られても、ビルの所有者、管理者、利用者など、誰のメリットになるのかも分かりにくい。
そのため、Microsoftはスマートビルディングのメリットとして、効率向上やコスト削減に加え、利用者の利便性向上という付加価値も提案する。つまり、「facilities centric(施設中心)」でなく、「people centric(人間中心)」の発想だ。事実、清水氏は、顧客から利便性を高める方法についての相談を受けることも多い、とした。
こうした顧客の要望に応えようと、Microsoftはビル内の要所要所に人感センサやカメラなどを設置し、顔認証による入館管理、対象者に合わせた照明や空調の自動調整、個人のスケジュール情報などに連携したサイネージを使った行き先案内、といったスマートビルディングソリューションを自社で実験している。このシステムを利用して人のオフィス内の動きをトラッキングしたら、例えば、座席数は従業員数の4割程度で足りる、といった知見も得られたそうだ。
Microsoftは、獲得したノウハウをパートナーとの共同ソリューション開発に利用するほか、コンサルティングサービスとして展開するなどして、顧客へ提供するとしている。
清水氏は、Microsoft自ら手がけるスマートビルディングを通じて取り組む不動産テックだけでなく、同社の技術をベースに開発された他社の不動産テック事例もいくつか紹介し、講演を締めくくった。主な内容は以下のとおり。
●HoloLensを使ったマンション販売支援(野村不動産、NEXTSCAPE)現実の景色にCGを重ねて表示できるMicrosoftの複合現実(MR)ヘッドセット「HoloLens」を使い、マンションの完成イメージを見込み顧客などに分かりやすく提示するシステム。建設予定地であたかもマンションが建っているかのような映像を景色に重ねて表示する機能と、オフィスなどでマンションの全体像をさまざまな視点から見られるようにする機能を備える。
建設予定地では、建設前や建設中で更地のような場所でも、完成したマンションの外観を見ることができるため、顧客はイメージがつかみやすくなるだろう。さらに、検討中の部屋の位置を分かりやすく示したり、近隣施設の情報を付加表示したりすることもできる。
オフィスでは、建設予定地で利用可能な表示機能に加え、マンションを支える杭の状況なども仮想的に目視できる。
●HoloLensを使った一般家庭向け昇降装置の設計支援(ThyssenKrupp Elevator)車いす用の昇降装置を設置する場合、住宅ごとに異なるサイズや形状の階段に合わせて専用設計をその都度する必要がある。
ThyssenKrupp Elevatorは、設計に必要なデータの実測にHoloLensを利用するシステムを開発。これにより、現場で図面を作成したうえで3Dモデルまで生成し、そのまま実際の設置場所との整合性をMRで確認する、という作業が可能になった。測定から設計、完成状態の確認までを現場で済ませるようになり、工数とコストが大幅に削減できたという。
●Azureクラウドを介した建築現場の定点撮影サービス(Type R)建築現場の作業進ちょく状況を長期間にわたって定点観測するため、カメラで撮影した画像をモバイル回線経由でAzureクラウドへ保存し、後日ビデオに編集して提供する「AirLapse」サービス。
もともとは、東日本大震災の被災地で進められている復興作業のようすを記録する目的で開発された。電力網や通信ネットワークを利用できない環境で10年以上も定点観測できるようにするため、太陽光発電や3G/LTE通信などの機能を備えている。
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