不動産テックからマンション建替えを考える--築50年を迎える「2022年問題」とは

 不動産テックビジネス研究会は9月21日、第4回研究会「不動産×ITディスカッション」を開催した。テーマは「マンションの終活~その現状と課題~」。2015年末時点で約623万戸を数えるマンションストックだが、2020年には133万戸、2022年には233万戸、2025年には511万戸が築50年を迎え、建て替えが視野に入ってくる。

 住民となる区分所有者の合意が必要になるマンションの建て替えには、どんなハードルがあり、課題解決にはなにが必要なのか、旭化成不動産レジデンス マンション建て替え研究所 主任研究員である大木祐悟氏が講義するとともに、トークセッションが開かれた。


 大木氏は、1983年に旭化成工業に入社。定期借地権推進協議会運営委員長、老朽化マンション対策会議幹事などを務め、建物の老朽化と建て替えの問題に取り組んでいる。

 不動産テックビジネス研究会は、デジタルハリウッド大学大学院 尹煕元研究室「サイバーファイナンスラボ・プロジェクト」内に設置された研究会。不動産テック企業、リマールエステートの代表取締役社長CEOである赤木正幸氏が代表を務める。

 研究会メンバーは、赤木氏のほか、シーエムディーラボ 代表取締役社長、デジタルハリウッド大学大学院 特任教授の尹煕元氏(ファイナンス・AI・仮想通貨・ブロックチェーン)、デジタルハリウッド大学大学院の藤田優介氏、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士、FinTech協会分科会事務局長の落合孝文氏(法律・ファイナンス)、鈴木由里氏、チェンジマネージャー理学博士の勢〆弘幸氏らが参加している。

2002年以降、純粋に建て替えられたのはわずか150件という事実

 大木氏は、マンション建て替え問題の課題として「(建て替えの)意思決定をするには、区分所有者の合意形成が不可欠であるが、区分所有者側に正しい情報を有しないまま合意形成すると計画が破綻する可能性がある」「建て替え決議を含む総会決議は、法律と規約にもとづいて行う必要があるが、管理組合の日常の運営において必ずしも法令遵守が徹底しているとはいえないこと」「建物の中古流通の際の問題、リノベーションの際の問題」――と3つの課題を挙げた。

 「住民に正しい情報が伝わらないのは、建て替え事業を理解しているプレーヤーが少ないため。2002年以降、純粋に建て替えが進んだマンションはわずか150件程度。これらのケースはコンサルタントも事業会社も特定の会社に実績が偏っているため、ノウハウの水平展開ができていない」と現状を説明した。

 しかし「1970年に作られたマンションはあと2年で築50年を迎え、2年後の2022年以降は築50年のマンションが急激に増える。これらのマンションはどうするべきか」とし、マンション再生の選択肢として、大規模改修、建て替え、売却の3つを挙げた。大木氏は「基本的には大規模改修などを繰り返して、一定の効用を維持していくべきだが、建物の置かれた状況次第では、マンションの終活の検討も必要になる」とした。

 マンションの建て替えには、建て替え決議集会の招集、説明会の開催、建て替え決議などのステップが必要になり、さらに区分所有者の5分の4の賛成を得なければならない。

 しかし「集会を開いても人が集まらない。区分所有者の無関心が建て替えが進まない一番の理由」と大木氏は指摘する。その原因の多くは建て替えの必要性を感じていないこと。「マンションの内部が老朽化していても見た目ではわからないため、建て替えの必要性を理解していない区分所有者は多い」という。また「建て替えが必要だという人と修繕改修で十分と考える人の意見が対立してしまう」「ここ2~3年で建築費が高騰しており、建て替えに必要な費用をどう捻出するか経済的な問題も大きい」など、私見としながらも建て替えが進まない理由を挙げた。

 マンションの耐用年数についても触れた。大木氏は1926年建築の「求道学舎」は、2004年にリノベーションし、期間62年の定期借地権付きマンションとして分譲した例を挙げ、「結果的には築後140年は持つという発想ができる」とした一方、築38年で建て替え決議をし、築39年で解体事例があることを挙げ、「建て替えられたマンションは、平均築後42~43年程度で解体工事をしているが、現実には物件の個別性が極めて高い状態であると言える」と、築年数だけでは、建て替えの基準にならないとした。

 大木氏は「これまでの建て替えの仕組み」として、資金負担の問題をクリアできた方法も紹介した。具体的には、容積率に大幅な余剰があるケースで、例えば従前の3倍の大きさの建物が建つようなケースでは、不動産価格が高い地区であれば持ち出しなく従前と同じ面積が確保できるケースもあるというもの。

 ただし、建て替え前のマンションに余剰容積率がある場合にのみ適用される方法であり、大木氏は「これまで建て替えられたマンションはこの条件を満たす恵まれた物件が多かった。現在は日陰規制など、建て替えによって建物が小さくなる既存不適格に値する場合もあり、自己負担が必要になることが多い」とする。

 このほか、東京オリンピック、パラリンピックを控えた都市部の建設ラッシュをはじめとする建築費の高騰や、マンションの駐車場部分のみ権利者が異なる権利関係の問題など、大木氏は、建て替えの阻害要因をいくつか紹介。マンションによっては修繕積立金が積み上がっていない、修繕積立金の残高はあっても、きちんとした修繕ができていないケースなどもあるとして、修繕金運用についても触れた。


運用は区ごと、ノウハウたまらずマンション建て替えを阻む

 ディスカッションでは、赤木氏が「不動産会社と顧客における情報格差とは違う毛色の問題がここにある。これをテクノロジでどう解決するか」と問いかけ、ディスカッションを開始した。

Q: 建て替えず何もしなかったら、このままどうなっていくのか。(尹氏)

A: マンションの空家化が社会問題となる。建物が空くと老朽化が進み、居住者が出ていってしまう。売ることも貸すこともできなくなる。

Q: 行政はマンションの建て替え問題について何か取り組んでいるのか。(鈴木氏)

A: 国のほか東京都でも施策を考えているようだが、都で考えているケースは、実際に各市区の条例整備が必要になる。市区ごとに対応が異なる可能性があるので、進むケースと進まないケースが考えられる。

Q: 建て替えをするメリットはあるのか。(鈴木氏)

A: 持ち出しが少なくて建て替えができた頃はそれがメリットだった。今のように余剰容積も少なく、持ち出しの金額が多くなってくると修繕改修でいくのか、建て替えるのかは大きな問題。ただ、耐震性に問題があり、水道管などのインフラが限界にきている中でそれらを交換するようなケースでは、大規模修繕や改修にも相当な費用がかかる。高経年マンションで管理に問題がある場合は、そこまで費用をかけることと、建て替えることの比較衡量で判断をすることになるだろう。

Q: 海外の事例はどうなっているのか(赤木)

A: マンションの建て替えが圧倒的に進んでいるのは韓国のソウル。ソウルは大きな街なので、不動産価格は高いが、逆に一極集中なので、建て替えのノウハウが貯まりやすい。米国などでは特に建て替え制度がなく、売却することがほとんどになっている。なお、売却については、シンガポールでは事例が非常に多くなっている。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]