多くの企業がこれまでの事業成長の延長線上にない新規事業や、いわゆる「オープンイノベーション」にチャレンジしている。非連続の成長を実現するためにその必要性や重要性が高まる一方、「トップは新しいことをやれと言っているのに何故かなかなか社内で進まない」「新しいことをやらないとまずいと感じるが上司の理解がない。プランを持っていってもできない理由を言われる」等々の声も多く聞く。既存事業の運営に最適化されたオペレーションにおいては予算計画通りの実績管理と着実な実行が重要であるため、不確実性が高く試行錯誤が必要な新規事業の取り組みは既存事業の視点からすると非効率極まりなく、特に大企業の中でのチャレンジにおいてはなかなか困難なハードルがあるのが一般的である。
日本は世界的に見て研究開発に多額を投資しており、魅力的な技術やイノベーションのタネがそこかしこにあると感じる一方、クラウドファンディング「Makuake」を通じた事業化や商品化をご一緒する中で、「日本企業は新しいことが産めないのではなく、その商品化や事業化を阻害する要因・構図があるだけではないか」と考えるに至った。筆者はMakuakeに取締役として創業から携わり、最近では主に大企業の「研究開発技術からの具体的な商品化・事業化」や「体系的に複数の事業を生み出す事業創造プログラム」などを行っている。この連載ではその背景・構図とそれを突破する方法論として“ユーザーが買うかどうか”の起点で考えていく価値作りのプロセスなどについて述べていきたいと思う。
日本企業の中には研究開発の前線で頑張っているたくさんの素晴らしい人がいる一方、「出口としての実現性のあるビジネスアイデアと実行プラン」がないことで世にアウトプットされない構図が多くあると感じている。総務省によれば2015年の日本の研究開発投資は約19兆円(平成28年科学技術研究調査結果の概要)で世界第3位の規模にある一方、研究開発効率は悪い(図1:内閣府世界経済の潮流2012年資料より)。
つまり、「世界的に見て総額及びGDP対比で見て継続的に高い水準で研究開発投資をしている」ものの、「相対的な価値(=競争力、利益)に結び付きにくい」とも言える。
そこには様々な理由があると思うが、筆者がこれまで多くの企業と話してきた実感値としては下記のような負の循環があると感じている。
一方、シャープやコニカミノルタなど、クラウドファンディングをテコとして新たな商品を生み出し、それを事業成長に結びつけていく好循環として、下記の構図を生み出す事例も増えてきた。事業を推進する尺度として社内の論理をふまえながら、リスクを最小に抑え小さく生み出すチャレンジ(=クラウドファンディング)により、ユーザー、メディアの支持を得て事業を前に進めるテコにしていく動きだ。
ハーバード大マイケルタッシュマン教授、早稲田大学院入山教授などが提唱しているが、イノベーションとは「異質なものの組み合わせ」から生まれる。前述の通り日本企業の研究開発投資はかなりの額に上っており、筆者が企業の話を聞いている限りでは組み合わせる元となる技術の種は数多くあり、組み合わせる「異質なもの」の先の探索や検証不足により「負の構図」が起こってしまっているのではないかと感じる。そういった意味で、冒頭の日本の研究開発効率を上げるための鍵は「(技術革新ではなく)ユーザー起点での「技術価値発見」」にあるのではないかと思っている。
次回以降は、ソニー「FES WATCH」やシャープ「冬単衣」など、筆者がメンバーとともに様々な企業で「社内の反対もありながらも世にアウトプットする」中で見えてきたおさえるべきポイントやステップについて、述べていく。
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