「いつも言っているように、あれはリターンマッチだった。初戦(1996年)は私が勝ったんだから」。DEF CON開催中のシーザーズ・パレスで、Kasparov氏は静かに笑いながらそう語った。同氏は現在54歳で、セキュリティ企業Avast Softwareのアンバサダーを務めている。その立場からKasparov氏は、人間がサイバーセキュリティに関してAIと組む必要があるのはなぜか、全米を巡りながらその理由を説明している。
機械は人間が追いつけないほど速く学習できるようになっており、その点はチェスでもサイバーセキュリティでも変わらない、とKasparov氏は語る。「人間が、機械に打ち勝つために必要な警戒度と精度に到達することは、ほぼあり得ないだろう」
DEF CONの2カ月ほど前、筆者はDarktraceのニューヨークオフィスを訪問し、役員にシステムの仕組みを説明してもらった。
画面には、接続されたコンピュータやプリンタがDarktraceのネットワークにデータを送信する様子が表示される。その間、Darktraceが通常とは異なる動作がないか監視している。
「例えば、Sueというユーザーは通常、内部データにこれほど頻繁にアクセスしていない。これは、Sueの通常のパターンから逸脱している」。そう説明してくれたのは、同社のセールスマネージャーを務めるNancy Karches氏だ。それを受けてDarktraceは、ほかのマシンから仕掛けられている可能性が高い攻撃を遮断するのだという。
Darktraceの最高経営責任者(CEO)であるNicole Eagan氏は、次のように述べている。「機械ベースの攻撃が発生したら、攻撃は機械のスピードで次から次へと変化していく。そうなったら、人間が追いつくのは至難の業だ」
では、AIが標準になったらどうなるのだろう。Brumley氏は、誰もがAIを使い出したら、ハッカーは機械の欠陥を探すようになるだろう、と言う。ハッカーがまだ手をつけていない領域だ。
「これまで何度も繰り返し見られてきたことだが、新しいソリューションが効果を発揮するのは、その弱点が攻撃者によってまだ狙われていないからだ。弱点が一般に広まってしまえば、どんどん効果はなくなっていく」(Brumley氏)
セキュリティ企業Cylanceが実施したアンケートの結果によると、Black Hatに参加したサイバーセキュリティ専門家のほぼ60%は、2018年になればハッカーがAIを使うようになると考えているという。
「機械学習のセキュリティは、万全ではない」。サイバーセキュリティ企業Endgameの主任データサイエンティスト、Hyrum Anderson氏はそう唱える。Anderson氏は、機械学習によってハッカーとそのツールを検出するという研究を率いている。AIベースのマルウェアは、AIベースのセキュリティで見逃されるコードを見つけようと短時間で何千回も検索を試行するだろう、と同氏は予測する。
「犯罪者でも試行錯誤で同じことを実行できるが、何カ月もかかることになる。ところが、ボットに学習させれば、数時間で済んでしまう」(Anderson氏)
Anderson氏は、サイバー犯罪者が最終的に、ダークウェブ市場でハッカー予備軍にAIマルウェアを売るようになる、という予想も口にしている。
今のところは、ラスベガスのSherwood氏も、AIマシンによって同市が保護されていると安心している。そのマシンは、ラスベガスのネットワークを過去1年間にわたって保護してきたからだ。だが、ハッカーがAIを出し抜く日がいつか来る、ということもSherwood氏は自覚している。だからこそ、同氏とラスベガス市のセキュリティチームは、Black Hatに参加したのだ。機械が片っ端から攻撃を防いでいる間に、人間の判断力と創造性をいかにして発揮するかを学ぶために。
Kasparov氏も、これまで20年間、そのことを訴え続けてきた。同氏は、機械が80~90%の仕事をこなすようになると予測しながらも、同氏の言う「最終的な到達点」に達することはないという考えだ。
Kasparov氏は、次のように語ってくれた。「一方では、攻撃がますます高度になっていくだろう。であれば、もう一方のプラス面で、人間がさらに創造的になるしかない」
「創造性こそ、人間が差をつけられる部分なのだから」(同氏)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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