筆者は、1軒のタトゥーパーラーの前に立っていた。シーザーズ・パレスから6キロほどしか離れていない、ラスベガスのアート地区だ。通りの向こうには、シャッターを下ろした店3軒の隣に、保釈保証業の店が2軒並んでいる。
タクシーの運転手に間違った場所で降ろされてしまったのだと思った。
ここは、ラスベガスがプロジェクトに100万ドルを費やしたイノベーション地区のはずだ。市がここでテストしているという自動運転車は、どこを走っているのだろう。太陽光発電で、歩行者の通行でも発電する街灯というのは、どこにあるのだろう。
スマートフォンを取り出し、イノベーション地区の地図を確かめてみた。場所は合っている。さびれた店の数々、トレーラーハウス、空き地などが目につくが、ラスベガスのダウンタウンであるこの一角は、見た目よりはるかにスマート化が進んでいるのだ。
秘密は、道路や、立ち並ぶ街灯、交通信号機や配管類に隠されている無数のセンサにある。そのセンサが、大気質をモニタリングしたり、電灯や水を管理したりする一方、行き交う車の数をカウントし、Wi-Fiを供給している。
ラスベガス市当局が、廃れたこの一帯をイノベーション地区に選んだのは、テクノロジの力を借りてこの地域を再開発するのが狙いだと、Sherwood氏は言う。ただ、ひとつ問題がある。ネット接続されたそれらのデバイスはすべて、サイバー攻撃の標的になりうるということだ。そこで、Darktraceの出番になる。
Sherwood氏は、ラスベガス市の全ネットワークの保護を、積極的にDarktraceに頼ろうとしている。Darktraceは、機械学習に新しい角度から取り組んでいるからだ。機械学習系ツールの大半は、総当たりの原理で動いていて、膨大な回数の試行錯誤から学習できるように、何千テラバイトというデータを詰め込んでいる。1997年に、IBMのコンピュータ「Deep Blue」が、チェスの世界チャンピオンGarry Kasparov氏に六番勝負で勝利したときも、原理は総当たりだった。セキュリティの世界では、そのデータにあたるのがマルウェアのシグネチャということになる。本質的には、特定のウイルスやワームなどを識別するアルゴリズムである。
一方、Darktraceは今までの膨大な量のマルウェアデータベースを総当たりで調べることはしない。探るのは、人間の行動のパターンだ。Darktraceは、ユーザーの一般的な行動と考えられるものを1週間とかからずに学習する。その上で、何かパターンに外れることがあればアラームを発する。例えば、ユーザーのコンピュータが突然、多数のファイルを暗号化し始めるといった事態だ。
それでも、セキュリティの責任すべてを人工知能に明け渡すのは時期尚早だろう。そう話すのは、カーネギーメロン大学のセキュリティ分野教授であり、同大学のCyLab Security and Privacy Institute所長を務めるDavid Brumley氏だ。Brumley氏の予測では、悪事を取り締まるためにAIを安全に使えるようになるには、少なくともあと10年はかかるという。
「AIでは、見逃しがかなり起こりやすい。完全な解決策ではないから、重要な決定を下すには、まだ人の手が必要だ」と、同氏は電話で答えてくれた。
2016年、Brumley氏のチームが製作したAIマシンは、DARPA主催のコンテスト「Cyber Grand Challenge」で、ほかのAIチームを押さえて優勝を収めた。その数日後には、このマシンが2016年のDEF CONで世界有数のハッカーらと対戦している。同マシンは最下位に終わった。
確かに、機械はサイバー攻撃のスケールとスピードに人間が対抗するのを支援してくれるが、実際に支配できるようになるまでには、まだ何年もかかるだろう、とBrumley氏は言う。
なぜなら、現在のAIはまだデータ詰め込み式であり、今日の水準から考えれば、それはまぬけと言ってもいいくらいだからだ。
それでも、20年前にはKasparov氏を出し抜くほど十分に優秀だった。そのおかげで、同氏は機械の知能に負けた人間の代表のようになってしまった。
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