――物件を軸にすべてをデータベース化していくことが主眼なんでしょうか。今までの不動産業とは全く別の方向性ですね。
とにかくデータベース化し、見える化することで、使いたい人が使えるようにすることを推し進めています。不動産会社の最も重要な仕事の一つはたくさんある物件情報の中から、お客様にぴったりなものを提案するコンサルティング業務です。
しかし、現在の仕事は物件の空き室確認や、写真撮影、契約必要書類作成や確認、さらにはチラシ配りなど、情報提供と単純作業が7割程度を占め、本来のコンサルテーションは3割程度しかできていません。この単純作業を減らして、コンサルテーションに当てればもっといいサービスを提供できるはずです。
単純作業は、ICTやテクノロジを使うことで合理化でき、ざっくりですが30%は減らせると見積もっています。私たちの試算では不動産事業に従事している人たちの人件費は1兆5000億円程度ですから、約5000億円のコストを減らせる計算になります。
――非常に合理的ですが、現状の不動産業界からすると、テクノロジに仕事を奪われるという思考になってしまわないでしょうか。
それはすごく簡単な話で、最も付加価値の高いコンサルテーションに人間の力を使えばいいのです。そうすれば業務効率も上がり1人当たりの生産量は増えます。単純作業はテクノロジーで省力化して、一番マネタイズできるポイントに人間の力を使うことが重要です。
空き家問題にも関連しますが、物件に対するニーズは単純に住居、事務所といったものだけではなくて、住む、働く場所以外の用途を開発することがこれからの時代は大事になると思っています。
その1つが民泊で、これにはリノベーション、リフォーム市場を刺激して数兆円くらいの経済波及効果があります。また高齢者が多い地方であれば、デイケアセンターも必要ですし、都心では待機児童問題がありますから、マンションの一室を小規模の保育所として活用する手もあります。
そうした提案は人間だからこそできることですし、コンサルテーションしていくことで新たな価値を生み出せます。
――中古物件の活用にもつながりますね。
「失われた資産価値500兆円」とは、中古住宅に適正な価値を認めてこなかった日本の不動産取引慣行を根底とした資産の目減りを表した言葉です。これをそのまま受け取ると、日本人は必ず資産価値が減る投資商品にみんなが投資していることになる。これはないですよね。
最近の研究では、木造住宅の平均寿命は60~70年と言われていますが、現在は20年そこそこで資産価値がないと言われてしまう。これは変えていかなければなりません。
今ある中古住宅をきちんとリノベーションして長く使うことが大事で、そういう思いも込めて、この春に引っ越したLIFULLの本社は築50年の物件をリノベーションして使っています。
――物件、価格、性能評価とまさしくテクノロジを使って見える化されていますが、不動産会社についてはいかがですか。
「住まい」というお客様の生活の重要な部分にかかわる不動産会社は、誠実であることが大切です。お客様には、誠実で気持ちよいサービスを提供する素晴らしい会社や担当者と出会ってほしいと思っています。
LIFULLでは、覆面調査員が実際に不動産店舗やモデルハウスを訪れてその仕事ぶりを評価しています。調査結果はLIFULL HOME’Sのサイト上に公開し、お客様からわかるようにしました。ここを見える化していけば、誠実でいいサービスをすればするほど売上が上がる、好循環を構築できると思っています。
――これからの取り組みについて教えてください。
LIFULL HOME’SのビッグデータとAIを活用して独自開発した推計ロジックによる物件市場価値シミュレーションや、プライスインデックスの対象地拡大や精度向上によるグローバルスケールでの不動産相場の透明化など、創業当時からの目的である見える化をより一層進めていきます。
視野に入れているのは、完全にオンラインだけで不動産の契約・決済まで完結させることです。これは、内覧や手続き等の手間を省けるというレベルの話だけではなく、国境を超えた取引や海外から日本の不動産への投資をも見据えたものであり、見える化によって日本の不動産市場がグローバル市場に展開されることと連動した取り組みとなります。
森ビルJリートの投資開発部長として不動産売買とIR業務を統括するとともに、地方拠点JリートのIPOに参画。再生エネ業界においては、太陽光パネルメーカーCFOや三菱商事合弁の太陽光発電運用会社の代表取締役社長CEOを歴任。政治学修士、経営学修士、コロンビア大学とニューヨーク大学にて客員研究員。
IT業界の経験に裏打ちされた視点と、経営の視点の両面から、ITやテクロノジーを軸とした事業戦略立案や新規ビジネス開発、アライアンス支援を得意とする。近年は特にX-Tech(不動産テック)やロボット、AIなど最新テクノロジー分野を中心に手掛ける。経営学修士(専門職)。
マッキンゼーで日米欧の顧客への経営コンサルティングに従事後、独立。日米で新事業支援、スタートアップの経営支援を実施。またWIREDの北米特派員を兼務しY Combinatorなどを取材。14年に\QUANTUMの立ち上げに参画し、大企業やスタートアップと組んで新事業や事業を生む仕組みを作り続けている。
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