8月7日に発表されたソフトバンクグループの2018年3月期の第1四半期決算は、売上高が前年同期比2.8%増の2兆1860億円、営業利益が50.1%増の4792億円と、増収増益の決算を記録した。
業績を大きく伸ばしているのは米Sprintの業績回復で、利益は前年同期比190.9%もアップするなど、急回復の様相を見せている。ソフトバンクグループはSprintを軸とした米国の通信業界再編を狙っているだけに、Sprintの業績が回復して企業価値が向上することは重要な意味を持つといえよう。
また今回から同社を中心に設立した投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の業績が反映され、利益を1052億円押し上げる要因となっている。今回の決算説明会でも、同社代表取締役社長の孫正義氏は、このファンドの投資先企業に関する説明に多くの時間を割くなど、関心がSprintからファンドの運用に移りつつある様子を見て取ることができる。
だが一方で、今回のソフトバンクグループの決算を見ると、必ずしも好調というわけではない。1つは純利益が前年同期比97.8%減の55億円と、大幅に減少したことだ。これはARMの買収に際して、アリババの株式を一部売却する際にデリバティブ取引を活用した影響が大きいとのことで、3年間は同様の影響が出る可能性があるとのことだ。
そしてもう1つ、より気になる変化が国内通信事業である。ソフトバンクを主体とした同社の国内通信事業は、長い間好業績を継続し、多くのキャッシュフローを生む源泉となってきた。だが今四半期では、その国内通信事業が減収減益を記録しているのだ。
その理由として、孫氏は国内事業を成長させるための先行投資と説明するが、その内容を見ると、ワイモバイルの販売拡大や、固定・携帯のセット割「おうち割 光セット」、そして「Yahoo!ショッピング」の利用によるポイント10倍キャンペーンなどが挙げられている。他社からユーザーを奪うワイモバイル向けの施策を除けば、他社と同様、顧客のつなぎ止めにコストを割いている様子を見て取ることができよう。
そうした施策の成果は確実に出ているようで、ソフトバンク・ワイモバイルの両ブランドを合わせた主要回線の累計契約数は48万の増加。セット割の影響によって「ソフトバンク光」の契約数も前年同期比79%増加しているほか、主要回線のうちスマートフォンと従来型携帯電話に絞った「携帯電話解約率」は、2016年から0.1%下がって0.79%になったという。KDDIのau解約率(スマートフォンと従来型携帯電話が対象)が0.91%に上昇したことから、「初めてKDDIの解約率を下回った」と孫氏はアピールしている。もっともこの数字は、あくまでソフトバンクとワイモバイルを含んだものであることは考慮する必要があるだろう。
業績は落ちているものの、ワイモバイルが好調なことに加え、一連の施策で顧客のつなぎ止めに成果を出していることから、ソフトバンクグループではdocomo withやauピタットプランなどの分離プランに対して、追随する考えはないことを明確にしている。だが、これは裏を返せば国内の携帯電話事業の伸びしろがワイモバイルのみとなってしまっており、収益性が低いワイモバイルへの依存が高まりつつあることが懸念される。
孫氏は今後、日本の顧客に対してソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資企業のサービスを提供し、売上を高める方針を示している。だがファンド自体立ち上がって間もないだけに、今後の不安を払しょくするには、そうしたサイクルをいつ、どのようにして回していくかという方針も明確にしていく必要がありそうだ。
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