ソフトバンクグループは8月7日、2018年3月期の第1四半期決算を発表した。売上高は前年同期比2.8%増の2兆1860億円、営業利益は50.1%増の4792億円と、増収増益の決算となった。
同社の代表取締役社長である孫正義氏は、好業績の要因について「米Sprintの伸びが大きい」と説明する。実際Sprintの売上高は、前年同期比4.2%増の9104億円、営業利益に至っては190.9%増の1319億円と倍増。純利益も買収後の3年間で初めて黒字を達成したとのことで、「国内通信事業に迫る勢いになってきた」と、孫氏は事業立て直しの成果を高く評価する。
一方で孫氏はすでに、Sprintを軸に合併や売却などさまざまな選択肢をとり、再編を実施する考えを示している。そのため現在、本命と見られているT-Mobileの米国法人だけでなく、さまざまな通信事業者企業と事業統合に向けた交渉を進めているとの報道がなされている。この点については「1社だけでなく、複数の相手先と交渉している。意思決定する時期は近いと我々は思っているが、それだけにコメントは差し控えたい」と話し、早期に判断する構えは見せたものの、具体的な相手先の言及は避けた。
だが今回の決算説明会で、孫氏が多くの時間を割いて説明したのはSprintではなく、同社が力を入れている投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」について。今回の決算には同ファンドの業績が初めて反映されており、それが利益を1052億円押し上げる要因となっている。今週で60歳の誕生日を迎える孫氏は、このファンドの設立によって、起業家同士が“結合体”を作るという「当初思い描いていたソフトバンクグループの組織体系を実現する構えができた」と思いを語る。
また同ファンドは、先端テクノロジを活用した多くのベンチャー企業に加え、AIや自動運転などの分野で注目される半導体大手NVIDIAの株式を4.9%取得したことでも話題となった。孫氏はNVIDIAへの出資について、「(NVIDIAのCEOである)ジェンスン・ファンとは何年も前から友人関係にある。株価が高騰したため多くの株式を購入するには至っていないが、ビジョンや想いは共有する部分が多い。互いに期待を持ってやっていければと思う」と話した。
孫氏が時間を割いて説明した要素の2つ目は、純利益についてである。今期の純利益は前年同期比97.8%減の55億円と大幅に減少しているが、これについて孫氏は、半導体設計大手のARMを買収するための資金を用意するため、2016年にアリババの株式を売却したことが影響していると話す。
ソフトバンクグループはアリババの株式にデリバティブ取引を活用し、その影響で売却から3年間は、アリババの株価が上昇するとデリバティブ損失が発生する。それが純利益減少の主因になっているとのことで、「デリバティブ損がなければ純利益は対前年比61%というのが実態。2年後には強含みで戻ってくる」(孫氏)と、あくまで強気の姿勢を見せた。
そしてもう1つ、孫氏が説明に多くの時間を割いたのが、ここ最近の決算説明会ではほとんど触れてこなかった国内通信事業に関してだ。これまで順調に伸びてきた同事業だが、今期は売上高が前年同期比0.8%減の7557億円、営業利益が前年同期比8.6%減の2185億円と、減収減益を記録しているのだ。
その理由について孫氏は、「これから10年、20年先も十分健全に成長させられると考えた証。目先の利益を最大化するより、少しでも顧客基盤を増やすための先行投資をし、販売促進をしている」と答えている。具体的な取り組みとしてはワイモバイルの強化や、「ソフトバンク光」とのセット割サービス「おうち割光セット」の加入拡大、そしてYahoo!ショッピングでのポイント10倍施策をはじめとした、ヤフーとの連携施策強化が挙げられた。
これら一連の施策によって、ソフトバンク光の累計契約数が79%増の401万契約に達したほか、ソフトバンクの主要回線のうち、スマートフォンおよび従来型携帯電話の解約率が0.79%と改善。「ソフトバンクとして初めて、KDDIの解約率(第1四半期は0.91%)を下回った」(孫氏)と話すなど、大きな成果が得られたことをアピールした(ただしソフトバンクの主要回線の解約率は1.13%と横ばいである)。
ソフトバンクグループでは顧客基盤を拡大することにより、Eコマースの分野で成果を生んだヤフーとのシナジーを一層強化して売上拡大を図るだけでなく、ソフトバンク・ビジョン・ファンドで出資した企業と合弁などで日本法人を設立。ソフトバンクの利用者に向けてそれら企業のサービスを提供することで、一層の事業規模拡大を狙う考えのようだ。
一方で、NTTドコモの「docomo with」や、KDDIの「auピタットプラン」のような分離プランの提供に関しては、同社代表取締役副社長の宮内謙氏が「1カ月様子を見たがまったく影響が出ていないので、現在のところ(追随は)考えていない」と一蹴。孫氏も「あくまで分離プランであり、値下げにはなっていないのではないか。(それらのプランに)ユーザーが多く流れ込んでいるとは認識していない」と話し、対抗する必要はないとの考えを示した。
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