2017年6月28日〜30日の3日間に渡り、国際司法裁判所やユーロポールなど国際機関が集中するオランダの行政都市ハーグでテックカンファレンス「ボーダーセッション」が開催された。
もともとは米国のテキサスで開催されているインタラクティブフェスティバル「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)」の欧州版を開催したいという主催者の思いからスタートしたもの。
“本家” であるSXSWが商談やマーケティングの場として盛り上がっているのに対し、ボーダーセッションはアート的要素も盛り込んだよりプリミティブ(原始的)なプロジェクトを多く取り上げる。このあたりは欧州ならではと言えるだろう。そんな、欧州で今後注目を集めるテクノロジを一挙に紹介するボーダーセッションで、特に目立ったのは「サステイナビリティー」、つまり持続可能性がコンテクストとして根底にある取り組みだった。
たとえば、野菜など植物を効率的に栽培する方法を突き詰める「バーティカル・ファーミング」や、遺伝子などミクロのレベルにテクノロジを活用して新たな食物(植物)を作り出したり、肉自体から新たな肉を培養したり、植物が自生するパワーを使って電球を点灯させたりするプロジェクトなどだ。これまでの「サステイナブル」の概念には収まりきらない、未来を感じさせる取り組みが目白押しだった。
「宇宙」もそんなテーマの柱の1つでスタートアップによるピッチも多く、「宇宙での持続可能性」をテーマにした丸1日がかりのワークショップやセッションに筆者も参加した。そこでスピーカーとして登壇していたのが、ニューヨークの建築事務所「CLOUDS AO」を共同設立し、活躍する日本人建築家の曽野正之さんだった。
曽野さんらは、“火星移住”をテーマとした米国航空宇宙局(NASA)が主催したコンペティションで「火星の住宅」を提案し、優勝。2035年の完成を目指して、目下NASAと共同プロジェクト「MARS ICEHOME」を進行中だ。彼らは、自らが“環境の知覚体験”と呼ぶ、そこに住まう人の体験を豊かにするために目に見えない事柄をデザイン要素として重視する姿勢を大切にし、プロジェクト名の通りNASAと火星で「氷で造る住宅」を建てようとしている。
曽野さんらが火星で家を氷で建てようとしているのは、氷で建てる家が究極的にサステイナブルであるからだ。その理由は、3つある。まず1つは、氷の壁面は効果的な放射線シールドとなり、わずか5cmの厚さであっても、シェルが銀河宇宙線や太陽宇宙線を安全なレベルにまで遮ってくれること。
2つ目は、氷は半透明であり、その中で暮らす人びとの健康的なバイオリズムを日光で維持してくれること。氷のシェルは透明にも調整できるため、人びとは火星の景観を楽しみ、心理的なコンディションを改善することもできるそうだ。そして3つ目は、氷は簡単に豊富に抽出でき、さらに処分に必要なエネルギーも少なくて済むこと。このように、氷は火星においてはサステイナブルな「素材」となりうるのだ。
曽野さんらとNASAは、火星で住宅を建てるにあたり、「ヒューマンファクター・アプローチ」という、クルー(住人)の快適さや心地良さを重視する設計のアプローチを採っている。また、住宅の設計だけに止まらず、食物栽培用のグリーンハウスや作業空間など、火星での人びとの生活そのもののデザインを手がけたい考えだ。
ボーダーセッションは、曽野さんのような野心的な起業家らと参加者の距離が近く、お互いにコミュニケーションを図りやすい規模のカンファレンスである。欧州のテクノロジトレンドを知りたい読者は、2018年に出向いてみてはいかがだろう。
(編集協力:岡徳之)
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