Amazonが米国でWhole Foods Market(以下、Whole Foods)というスーパーマーケットチェーンを買収することになったというニュースが先週末に流れていた。137億ドルという買収金額もさることながら、名の知られた既存のチェーンを丸ごと買収ということで、かなり意外かつ大きなインパクトを持つ動きとして、各媒体で取り上げられていたようだ。今回はこの話題に関して目についた点をいくつか拾ってみる。
いきなり私事で恐縮だが、16〜17年前に「クリック&モルタル(原題:Clicks and Mortar)」というビジネス書の翻訳を手伝う機会があった。当時、ネット勢の台頭を受けて守勢に回っている印象があったCharles Schwabという証券会社の最高経営責任者(CEO)が書いた書籍で、同社は既存店舗を中心とする、いわゆる「Brick & Mortar」(実店舗で販売を行うビジネス)の側だったが、「われわれはネット(Click)とリアル(Mortar)をうまく組み合わせていくことで、ネットオンリーの競合相手にはできないサービスを顧客に提供できると考えている」という趣旨の話だったと記憶している。今になって思うと「なんともノンビリとした話」に感じられてしまう。だが、そういう大昔(前世紀?)のことまでうっすらと覚えている者からすると、今回のAmazonによるWhole Foodsの買収というのは、「クリックがモルタルを丸ごとお買い上げ」してしまった実例として、とても感慨深い出来事に思える。
後述するが、Amazonが自社にとって「足りないパーツ」を手に入れるためには手段を選ばない、あるいはかなり思い切った手を打ってくるという点も今回の動きで確認されたことから、同社の威力をあらためて思い知らされた。
「Alexa、バナナ買っておいて」などと「Amazon Echo」(スマートスピーカー)に呼びかけると、注文した商品をその日のうちにWhole Foodsの店舗で受け取れたり、翌日に家に届いていたりするようになるかもしれない。このニュースを報じたいくつかの記事を読んで、最初に思い浮かんだのはそうした姿だった。「それだけのこと」にすぎないといえばそれまでだが、これは消費者にとっては、ちょっとすごいことだと思う(スマホやPCを立ち上げて、ネットスーパーで商品を選び、注文するまでの手順を想像してみてほしい)。
AmazonとそのCEOであるJeff Bezos氏に関する書籍 「The Everything Store」を2013年に出版したBrad Stone氏(Bloomberg記者)によると、米国の食料品小売市場(grocery business)は約8000億ドルの市場規模があるそうだ。また、今なお大小多数の事業者が乱立する(寡占化があまり進んでいない)状態であり、トップのWalmartでさえ市場シェアは2割に満たないという別のBloomberg記事の指摘もある(同記事中のグラフをみると、Amazon自体のシェアは1%未満、Whole Foodsのそれは2%未満であることも分かる)。
Amazonはこれまで「Amazon Fresh」というサービスで食料品を取り扱ってきたが、それほど大きな成果は上がっていなかった。とりわけ生鮮食料品は取り扱いが難しく(ガジェットや日用品、書籍など「腐らない」ものとは訳が違う、ということ)、その部分についてのノウハウや関連するロジスティクス(商品調達から販売まで)を手に入れるのが、Whole Foods買収の狙いとする指摘も見つかる。またそれと関連して、現在460店以上あるWhole Foodsの店舗を物流のハブとして使い、食料品に加えて、できあがった食事の販売・配達も行うことが可能であることから、以前から米国での最大のライバルと目されるWalmartだけでなく、UberEATS(出前代行サービス)あたりとも競合する可能性もあるという。この部分について、前述のStone氏は「Whole Foodsの食事の売り上げは全体の約2割」と指摘している。
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