シャープの代表取締役社長である戴正呉氏は6月9日、「中期経営計画の必達、そして、真のグローバル企業“SHARP”の実現に向けて」と題したメッセージを、社内イントラネットに掲載した。
社員に宛てたメッセージは、2016年8月の社長就任以来、これで10通目。また、この日は夏季賞与支給日であり、6月から実施している信賞必罰の考え方をベースにした給与改定以降、初の賞与となった。
戴社長は「本日は、夏季賞与支給日である。今回は全社で平均2カ月の賞与および社長特別賞を支給する」とし、「6月から信賞必罰のポリシーに沿った給与改定を実施した。今後も、頑張った人が報われる人事制度を拡充、定着させていく。一層の奮起を期待する」と呼びかけた。
メッセージでは、5月26日に発表した「2017~2019年度中期経営計画」についても触れた。同説明会には、大阪府堺市のシャープ本社と、中継先である千葉市のシャープ幕張ビルを合わせて、106社191人の報道関係者およびアナリストが参加したことを報告。「8KとAIoTで世界を変える」ことを事業方針に掲げたことや、2017年度は大幅な売上拡大と年間黒字化の方針を打ち出したことに加えて、「2019年度には売上高、利益ともに、過去最高に迫る業績を成し遂げ、再び、シャープをグローバル市場で輝かせたいと考えている」とした。
今回のメッセージでは、中期経営計画の重要なポイントとして、3つのポイントをあげた。1つ目は「スマートホームの実現に向けた取り組み」だ。
「シャープには、テレビやスマートフォン、白物家電、ソーラーシステム、IoT関連デバイスなど、お客様の生活に密着したさまざまな機器やデバイスがある。加えて、COCORO+商品の開発で培った、『我が家流・自分流の進化』、『愛着を生む対話』を実現するAIoTプラットフォーム、会員向けサービスやコールセンターなどのシステム、さらにはそれを支えるデータセンターなど、スマートホームビジネスを優位に展開できる強みを有している。こうした強みをさらに磨くとともに、サービス事業者や機器メーカーと幅広く連携することで、当社ならではのIoTの世界である『人に寄り添うIoT』を実現し、各社がしのぎを削るスマートホームビジネスの中でも、存在感を示すことができると考えている」とした。
ここでは、「私よりも、この分野に精通しているIoT関連部門の皆さん。私たちだからこそ創れる価値があると思いませんか?」と、これまでの一連のメッセージでは使ってこなかった社員に質問をするスタイルを用いてみせた。
2つ目は、「8Kの取り組み」だ。「シャープが目指すのは、単に高画質のテレビを作ることではなく、8Kエコシステムを構築することである」とし、「8Kは、放送分野はもちろん、医療やセキュリティ、検査、インフラ保守など、さまざまな分野でイノベーションを起こす可能性を秘めている。その実現に向け、映像の作成から配信、表示までの一連のバリューチェーンを、さまざまなパートナーとともに早期に構築していく」と語り、「カメラや編集システム」「映像配信インフラ」「表示機器」の3つの領域に重点的に取り組んでいく姿勢を示した。
「シャープには、脈々と継承されてきた、『まねされる商品をつくれ』という創業の精神がある。8Kを、他社がまねしたくなるような魅力ある事業に育て、“Be Original.”の歴史に新たな1ページを刻もう」とした。5月26日から6月初旬まで、堺本社の多目的ホールで、8K関連を展示したことに触れながら、ここでも「皆さん、8Kの素晴らしさを実感されましたか?」と質問形式で呼びかけた。
3つ目が、「中期経営計画の実行力」だ。中期経営計画を確実に実行していくためには、事業を支える人材の確保、育成が何よりも重要であるとし、「すでに、順調な業績回復や、成果に報いる人事制度の導入を背景に、シャープの採用活動の潮目は確実に変わってきている。今後も、優秀な人材を積極的に採用するとともに、社内の研修制度も充実させるなど、人材育成にも力を入れていく。さらに、鴻海グループの人材やリソースを最大限に活用することで、実行力をより一層高めていく」と人材面での強化に取り組む姿勢を示す一方で、「新しい取締役会は、高い専門性を持った9人で構成し、監督機能のさらなる強化に重点を置く。また、業務の執行や事業拡大に向けた戦略、方針は、今回、復活した12人の執行役員が経営戦略会議などを通じて議論し、決定していく」と、新たな経営、執行体制についても説明した。
戴社長は「今回の中期経営計画は、年明け以降、何度も検討を積み重ね、私たち全員の力で練り上げた成長シナリオである。私は、この計画の達成に自信を持っている」と断言。「それぞれのアクションプランを着実に実行していくとともに、PDCAをしっかりと回し、まずは、2017年度の計画を必ず達成しよう。そして、次の100年の礎を、シャープの新たな歴史を、共に創っていこう」と呼びかけた。
一方、厳しい側面も見せた。「業務ルール順守の再徹底」と題し、「当社には、仕事の進め方のルールを定めた業務決裁要綱があるが、直近でも、厳禁されている自己決裁に起因する不正が発生している。また、かねてから徹底している契約締結プロセスの厳守についても、海外では、まだまだ取り組みが不十分な状況にある」と指摘。「今後、積極的な事業拡大を目指すが、業務ルールを逸脱することで、当社が損害を被ったり、信頼を損なったりするようなことは、絶対に避けなければならない。いま一度、各部門において業務ルールの順守状況の再チェックをし、万一、不十分な点があれば、即刻、是正してほしい」と、ルール順守を徹底した。
メッセージでは、6月1~5日までの5日間、米国の複数の州から、州知事や州幹部、専門家などのチームが、シャープ本社を訪れたことを紹介。「米国では中央政府ではなく、州がビジネスに関する強い権限を持っているため、このミーティングは極めて重要な意味を持った。8Kエコシステムや最先端のディスプレイシステム、AIoT機器、IoT関連デバイス、ソーラーシステム、スマートオフィスなど、シャープの幅広い先端技術を紹介し、それぞれの州におけるさまざまなビジネスチャンスについて、活発な意見交換を行った」と報告。「この5日間で、私が最も強く感じたことは、何としてもシャープを自らの州に呼び込もうというチームメンバーの強い熱意であった。休日でのミーティング設定や、米国からの移動直後にもかかわらず、そのまま夜遅くまで議論を重ねるなど、時間を一切無駄にしないという姿勢で臨んできた。また、それぞれのプレゼンテーションは、長時間に亘って検討を重ねてきたことが伺え、プレゼンテーションの完成度はもちろん、その提案も、シャープにとって検討に値するもので、シャープとともにビジネスを拡大していきたいという思いが、ひしひしと伝わってきた」と、単なる表敬訪問のレベルではなかったことを示した。
戴社長は、「私は、企業はいわば政治のような『植物』ではなく、『動物』だと考えている。つまり生き残るために、1カ所に留まらず、新しい市場や事業を常に探し続ける生き物である。こうした観点から、巨大なマーケットである米国での事業展開を検討している」とし、「今後も、複数の州からの来訪の可能性がある。こうした機会を逃さず、積極的に提案をし、ビジネス拡大につなげる、貪欲な姿勢を持ってほしい」とした。
その一方で「安易に米国で投資や事業展開を実行していく訳ではない。顧客獲得の見通しや競合他社の状況、技術の動向、投資環境などを冷静に分析し、身の丈にあった、そして、競争優位を確信できる投資、事業展開を進めていく」とした。
このあたりのコメントをあえて付け加える点には、交渉を優位に進める鴻海流の経営手法の一端が感じられるといえよう。
最後に戴社長は「州知事の訪問のように、外部のシャープを見る目は、確実に変わってきている。これはこれまで取り組んできたことが、着実に成果に結びついている証拠である」とし、「6月20日には新生シャープとして初めての株主総会を迎えるが、この節目にこれまでシャープを支えた株主、そして、従業員を対象に、感謝の施策を実施したいと考えている」と述べたが、施策の具体的な内容については触れなかった。そして、「ここからが、いよいよ、本当の勝負。自信を持って、中期経営計画の必達、さらには、真のグローバル企業“SHARP”の実現に向け邁進していこう」と、最後に手綱を締めた。
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