中古マンションのリノベーションを手がける「リノベる」が推進する、リノベーションによるスマートハウスプラン。社内にはさまざまなデバイスが集結するスマートハウスショールーム「Connectly Lab.(コネクトリーラボ)」を設け、1月にはスマートハウス実用化第1号が完成。省エネのイメージが強かった日本のスマートハウスの認識を払拭し、スマートハウス=IoTを定着させつつある。
開始から約2年。スマートロックやネットワークカメラ、さらにはAmazon「Echo」など、さまざまなIoT機器が登場してくる中で、スマートハウスをどう構築し、住まいの中に根付かせているのか。リノベるリノベーション事業本部の木村大介氏に聞いた。
木村氏がリノベるに入社したのは2015年。入社する約半年前にIoT機器に触れ「これからの住宅には絶対にテクノロジが入ってくる」と確信したという。当時新規事業を立ち上げた経験はなく、元は営業職。面接時には営業職と兼務する予定だったが、入社後は専任で新規事業であるスマートハウスの立ち上げを担当することになった。
「当時、思い描いたのはスマホからテレビやエアコン、照明など自宅内の機器を操作できるというもの。それを仮のビジョンとして据え、ショールームを作った」という。コネクトリーラボは、そのビジョンを具現化する形で設計。スマホアプリを用意しているテレビやセキュリティカメラ、エアコンなどを配置し、タブレットにはスマホアプリをすべて投入。物珍しさも手伝って、いろいろな人が見に来てくれたが、実際に作ってみたら全然便利じゃなかった」と木村氏は当時を振り返る。
問題はアプリの多さ。すべての機器に別々のアプリが用意され、使いたいアプリを探すだけで時間がかかる。「リモコンが1つにまとまれば便利になると思ったが、タブレットの中にアプリが並んでいるのはリモコンが並んでいると一緒。それだったら、電気のスイッチを切りにいったほうが早いし、リモコンを探して操作する方が便利ということがわかった」という。
ここから、木村氏の試行錯誤は始まる。アプリの多さを解消するため、スマートハウス専用の統合アプリ「Connectly App」を開発。「ユーザー調査の反応もよく、使いたいというユーザーが多かったが、実際に使用後の意見を聞くと使っていないという答えが返ってくる。調べてみると、宅内ではリモコンを操作したほうが早いし、宅外からエアコンを付けておく機会が少ないというのが原因。それならばと今度はペットを飼っている人をターゲットに、宅外からエアコンをつけたり、ネットワークカメラで外出先から自宅のペットの様子を確認できたりする機能を提供。これも反応は大変良かったが、導入から1週間後に話を聞いてみるとやはり使っていないと言われた」。
この段階で、木村氏はスマホから遠隔操作ができるという当初のビジョンを捨てる。ユーザー自らが操作するのではなく、家が外出する時間を教えてくれる、起きる時間が照明でわかるといった受け身へと視点を切り替えた。
ここにたどり着くまでに、繰り返したのが実際にシステムを作り、使ってもらう実証実験。アイデアの段階では便利そうに思えても、実際に使ってみることで、何が使いにくいのか、そこにニーズはないのかといった事実が見えてくる。
「実際にやってみると、アプリが並んだスマートフォンから操作するよりもリモコンのほうが便利だということがわかるが、アイデアの段階では、アプリは便利という思い込みがあってそこに気づかない。この経験から自分の思い込みを信じないようになった」と木村氏は自身の変化を話す。
現在、リノベるが提供するスマートハウスには、ユカイ工学社のロボット「BOCCO(ボッコ)」を導入。家族が帰宅するタイミングや外出するときの時刻や天気などの情報を、自動的に音声で教えてくれる。統合アプリConnectly Appから設定が可能。この時初めて、ユーザーから「使い続けている」という答えが返ってきたという。
木村氏がヒアリングしたユーザーは、200人を超える。その際、留意しているのは行動を聞くこと。「どうですか?と問いかけると大体の人が『いいですよ』って答える。でも1週間に何回使いましたかと聞くと『1回です』、『使っていません』といった真実が出てくる。行動には、発言には現れてこない真実が隠されている。行動にフォーカスしないとだめというのは開発チームにも徹底している」。
IoTによる本当に使いやすいスマートハウスを作り上げている木村氏が、今注目しているアイテムは、AmazonのEchoとフィリップスの「Hue」だ。「Echoの登場は衝撃だった。音声入力って少し前まではすごく抵抗があって、例えばiPhoneのSiriも3年前は使わなかった。でも最近使う機会が増えてきて、例えばHueと組み合わせれば、音声入力ですぐに自宅の照明が消える。これは便利だなと。確かに音声入力を使うハードルは高いが、20年前にスマートフォンの画面をタップしている姿が想像できなかったように、人間の行動は変わる可能性がある。そう考えると音声入力に抵抗がなくなる日は必ず来る」と将来を見据える。
また、窓のない部屋でも朝日のような灯りをタイマーで付けることで、目覚められる、眠りにつく時にリラックスする灯りにして自動で消灯するなど、生活に合った灯りを提供できることもHueの魅力だという。物理スイッチである「Dimmerスイッチ」が付いている点も高評価だ。
「実際に使ってみると、Hueのない生活は考えられないと思えるほど便利なもの。スマートハウスに取り入れている機器はすべてが使ってみて初めてわかる便利さが搭載されている」と木村氏は、導入するIoT機器の基準を話す。
今後見据えるのは、スマートハウスのiPhone化だ。「iPhoneは、ハードとしての見た目は同じだが、中に入っているアプリはユーザー自身が使いやすいものを組み合わせている。そういう家を作りたい。家の場合はiPhoneでいうハードがIoT機器で、欲しい機能が増えたり、暮らしに変化があったときにアプリを入れたりソフトウェアをアップデートすることで対応できる。でも、最終的にはiPhoneよりもっとすごい体験を作りたい」と今後のビジョンは明確だ。
ビジョンの実現に向け必要なのは「他社との連携」と木村氏は言う。「リノベる1社でできることではなく、機器もアイデアも連携して出していきたい。今後必要なのは住宅用のOS。OSの仕様を明確にして、OSの上で自由に家を作る、そうした形が理想」と言う。
IoT機器による便利な暮らし“スマートハウス”は今後、競合他社も力を入れてくる分野と予想される。その中でもリノベるの強みは「スピード」と木村氏は断言する。「通常の住宅メーカーが機能の検討をして、稟議を出して、許可が降りてと、着工までに1~2年かかるところ、リノベるでは住むお客様がどういった家にしたいか要望を出し意思決定するので、1年後にはもう完成している。圧倒的に早く取り組めるところは、大手企業には真似ができない」と続ける。
木村氏が目指すのは、家の売買がもっとしやすく、活発になること。「家を買うことは、人生のなかでも多くても2~3回というのが現実。しかし、ライフステージによって住みたい家は変わってくるはず。その1つの方法がリノベーションであり、住替え。賃貸の家を引っ越すように、自宅を購入するそういう世の中にしたい」とした。
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