更新系APIが本格的に活用される中では、様々な外部サービスと銀行での振り込みがよりシームレスに連動するようになる。例えば帰宅が遅くなってしまった時や定期的な運動を「しなかった」ときに、家族の定期預金が一万円増えるような自動貯蓄ツールを作ったり、ECサイトにおいて銀行振込がカジュアルに使えるような局面が早晩現れる。
この観点は非常に重要であり、「支払い」をしたい、と思うニーズは常に金融サービスの外で生まれる点に注目する必要がある。誰もが、「振込の行為」そのものが欲しいのではなく、振込をして得られる結果が欲しいのであり、それが物品の購入であったり親族への仕送りであったりとしても、常にニーズが生まれる所に、金融機関の機能が付随していた方が便利に思えるのである。
参照系データにおいても、これまでは家計簿や会計ソフトなどがデータの主たる利用者となってきたが、例えば具体的な生活改善を行うFPツールのアプリが生まれたり、あるいは結婚相談所における年収チェックなどのために用いられることもあるかもしれない(世知辛く聞こえるかもしれないが、中国などではしばらく前からお見合いサイトにおいて個人の信用スコアを掲載することが常態化している)。
このような利便性は、現時点ではまだ限定的に思えるかもしれない。しかし、今後の経済圏を考えると、特に都市部の若い世代においては現金そのものを持つニーズがなくなってくる中で、APIがもたらす付加価値は大きく増幅していくこととなる。
現状の日本ではほとんどの人が金融機関を「近さ」で選んでいる。しかし、仮にすべての日常的な支払が電子マネーやカードに置き換えられるようになれば、同じ選択がなされるようになるのだろうか。金融機関の窓口に最後に行ったときはいつだろうか。現金が使われなくなった社会において「選ばれる」金融機関となるためには、より支払いや自分のデータに関するニーズに近づくことが、金融機関の戦略としても重要となってくるのである。
無論、ベンチャー企業も今回の制度整備により、単に自らの経営が楽になったとは思っていない。今後は、全く異なるジャンルの新規のプレーヤーが、新たな切り口で顧客の関心を得ていくかもしれない。さらにはグーグルやアマゾンといった、我々のことを自分以上に知っているプレーヤーがこのジャンルに参入することで、全く新たなレベルでの競争を迫られる可能性もある。
ただし、上記の過程を通じて必ずメリットを得る存在がおり、それは消費者である。消費者は今後生まれる、様々な銀行サービスやFintechサービスにおいて、より便利なものが支持され、規模が拡大していくのである。銀行のAPI化を通じて生まれる金融システムには、いずれはこのような世界観が展開しており、より直感的で困ることが少なく、すぐに問題に対応することで不安を解消できるサービスが増えていくことが期待されている。
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