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障がい者をチャットボットとBeaconで救う「&HAND」--助け合いの“ジレンマ”を解消 - (page 2)

藤井涼 (編集部) 井口裕右2017年06月02日 08時00分
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世の中から、新たな悲しみをなくすために

 タキザワ氏によると、プロトタイプが完成しているスマートマタニティマークや白杖用Beaconについて、実証実験を繰り返しながらUXの質を高めることを目指しているという。池之上氏は、「鉄道会社からは、(スマートマタニティマークよりも)まずは視覚障がい者へのサポートだという声をもらっている」と説明。白杖用Beaconの実用化にかける思いについて、次のように語る。

白杖用Beaconへの思いを語る池之上氏
白杖用Beaconへの思いを語る池之上氏

 「LINE BOT AWARDSの審査員の方に聞いた話では、視覚障がい者は年に数回とてもブルーになるときがあるという。それは、障がい者コミュニティにいる方が転落事故で亡くなったとき。そういう方が身近にいると、自分も視覚障がい者のために何かしたいという衝動が生まれるが、実際のところ何もできないもどかしさがある。そういう思いを抱えている人がいるということが、白杖用Beaconを広めたい背景にある。鉄道会社にとって、視覚障がい者へのサポートは命に関わることであり、最優先に考えている」(池之上氏)。

 記憶に新しいところでは、1月にJR蕨駅(埼玉県)で盲導犬を連れた視覚障がい者の男性がホームから転落し、電車と接触して死亡するという事故が発生し、鉄道各社は視覚障がい者へのサポートや声掛けの啓発に力を入れている。しかし、駅員だけでのサポートには限界があるとも、池之上氏は指摘する。

 「実は大きい駅などでよく観察すると、駅員は乗客が改札を通過する際に視覚障がい者であることを確認して、構内で連携して見守るようにしている。ただ、すべての駅が潤沢に駅員を配置しているわけではないし、現実には対応に限界がある。白杖用Beaconはまずは鉄道会社から導入を目指しているが、今後は一般の方にも協力してもらえるような仕組みにしていかなければならない」(池之上氏)。

関心の低い健常者の意識を、少しずつ変えていく

 池之上氏が語る通り、このような仕組みは社会に理解してもらい、参加してもらわなければその価値は発揮されない。今後どのように世の中に広めようとしているのだろうか。このような仕組みは、健常者の中でも特にこうした課題への意識が高くなければ、なかなか興味を持ちづらい。

 この点について、池之上氏は「これは(デバイスの普及にとって)一番大きな壁であり難しい課題だが、まずは駅員のように職業としてサポートできる立場の人に協力をしてもらう。また、ボランティア団体や障がい者が身近にいる方など、障がい者のサポートに対して関心の高い一般の方に参加してもらうことで、周囲を巻き込んでいきたい」と説明。全く障がい者との関わりがなく関心もない人に対して、いきなり障がい者を支援するサポーターになることを呼びかけるのは難しく、「そういう方々には、まず(&HANDの)存在を知ってもらうことが大切」と語る。

 こうした啓蒙・プロモーションについてはLINEも協力を表明している。池之上氏は「(LINEを通じて)少しでも&HANDの活動に触れていただき視覚障がい者の存在に気付いてくれれば、彼らの日常生活(の困難さ)に関心を持つようになる。そうすれば、その中からサポートしたいという意識を持つ人が現れて、ちょっと社会は良いほうに変わるかもしれない」と期待を寄せる。ほんの少しの意識の変化が積み重なることで、社会全体の意識変化を実現する可能性を生み出すのだ。

 日本は、自ら“おもてなしの国”と自負するように、助け合い・支えあいが当たり前のようなイメージがあるが、実際に自分が街中で困難に直面したときにどれだけの人が助けくれるだろうか。松尾氏は実体験をもって次のように説明する。

「&HANDのデバイスは自分たちのためのツールでもある」と松尾氏
「&HANDのデバイスは自分たちのためのツールでもある」と松尾氏

 「たとえば、電車に乗っていて突然貧血に襲われてめまいを感じ座り込んでしまったとき、周りにいる大勢の人は“この人、どうしたんだろう?”という眼で見ていてもなかなか助けてくれない。ランキングなどのデータで見ても、日本は世界の中で決して“優しい国”とは評価されていない。イメージとは裏腹だが、実は自分に照らしても、あかの他人に対して少しドライな部分はあるのかもしれない。&HANDのデバイスは、身近な他人に対して日常的に手助けができる人間になりたいという自分たちの願望の表れでもある」(松尾氏)。

 つまり、&HANDは障がい者のためのツールという側面以上に、健常者が障がい者に対して当たり前のように身近なサポートができるように、日常の意識や行動を変えていくことが重要なテーマなのだ。「まずは問題提起が大事だが、そこから世の中の意識を変え、行動を変えるところまでがプロジェクトの大きな使命」(タキザワ氏)。

ゴールは「プロジェクトが必要なくなること」

 池之上氏によると、LINE BOT AWARDSでグランプリを受賞したことを受けて、障がい者と向き合っている団体や障がい者自身からも多数の問い合わせが寄せられ、反響の大きさや関心の高さを実感しているという。一方、&HANDに対して障がい者のコミュニティからは厳しい眼も向けられている。「“また(過去の障がい者支援の試みと)同じようなものが出てきた”という反応も少なくない。『中途半端にやって辞めるのならば、やめてくれ』という声もいただく。厳しい意見だが、プロジェクトをやりきれという叱咤激励だと受け止めている」(池之上氏)。

 今後はLINEに技術協力を受けながら、スマートマタニティマークと白杖用Beaconの実証実験を通じてプロトタイプの仕様を煮詰め、製品化に向けてプロジェクトを進めていくという。久樂氏は「電池持ちの設計や使い勝手のデザインを煮詰めていけば、デバイスの製品化に向けたハードルは高くない。どちらかというとハードウェアよりも、知識がなくても障がい者のサポートができるよう、健常者をナビゲートする方法をブラッシュアップしていくことが大きなテーマになる」と説明する。

 なお、サポートする健常者向けのアプリでは、自分自身がどのような人にサポートができるか/したいかを選べるような機能を検討しているという。また、将来的には東京都が推進して全国へと拡大しているヘルプマークに統合するという計画もあるそうだ。商品価格については、必要としている人が買い求めやすく、ビジネスモデルとしても成立する価格設計を目指しているという。「スマートマタニティマークについては、保証金程度で貸し出す仕組みや、企業の福利厚生で提供できるようなスキームも検討している」(タキザワ氏)。

「&HAND」のメンバーである(左から)松尾佳菜子氏、タキザワケイタ氏、池之上智子氏、久樂英範氏
「&HAND」のメンバーである(左から)松尾佳菜子氏、タキザワケイタ氏、池之上智子氏、久樂英範氏

 そして、この&HANDが最終的に目指すところ、それは「このプロジェクトが必要なくなること」だと池之上氏は語る。「私たちのプロジェクトは、いまモノづくりの入口に立っているが、完全な出口はないと思っている。あえて言うならば、このプロジェクトが啓発しなくても“手助けし合うことが当たり前だよね”と世の中が考えてくれることが目指す理想であり、デバイスが必要なくなることがゴール。そのために、世の中の意見を踏まえながらデバイスの改良を積み重ね、少しずつ世の中の意識を変えていきたい」(池之上氏)。

 世の中に、困っている人の手助けをするのが嫌だという人は、そう多くはない。むしろ、できるものなら手助けをしたいと感じている人のほうが圧倒的に多いはずだ。しかし、思ってはいてもなかなか行動に移せない。タキザワ氏は最後に、このプロジェクトを通じて“一歩が踏み出せない”多くの人の背中を押したいと抱負を語った。

 「&HANDは、行動を変えるための“最初のひと押し”ができればいいと思っている。もし、そこで行動に移した結果、相手が喜んでくれたら、自分が人の役に立てたという実感を得ることができる。そうした経験が、次の行動を変えていく。そして、成功体験を積み重ねていけば、いつか&HANDのツールがなくても自ら行動に移せるようになるはずだ」(タキザワ氏)。

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