「2017年度は結果にこだわる重要な年。それと同時に通過点に過ぎず、企業として持続的な発展を続けていく必要がある」――ソニー代表執行役社長 兼 CEOの平井一夫氏は、5月23日に開催した経営方針説明会で2017年度をこう表現した。
2017年度は、ソニーが2015年から開始した第2次中期経営計画の最終年度にあたり、経営数値目標としてROE10%以上、営業利益5000億円以上を掲げる。4月28日に発表した2018年3月期通期業績見通しでは、営業利益5000億円の達成を見込む。平井氏は「20年ぶりの利益水準でソニーとしての大きな挑戦。しかしここ5年間の取り組みで十分に狙える力がついてきた」と現状を説明する。
高収益企業へと導いた取り組みの1つが「コンシューマエレクトロニクス分野の復活」だ。平井氏はテレビ事業を例に挙げ「2011年4月から、テレビ事業を含むコンシューマ・エレクトロニクス全般を担当することになったが、当時は2004年度から多額の営業赤字を計上し、ソニー最大の課題事業だった」と振り返る。平井氏は2011年11月に大きな戦略展開を発表。量の拡大によってコストをカバーをし、赤字からの脱却を狙ったそれまでとは異なり、事業規模は半分以下で、収益を得られる形へと方針を改めた。
その際には、ターゲット層の絞り込み、固定費の縮小、さらに最も大きなコストとなるパネルを、複数企業からの調達へと切り替えた。これらの施策によりテレビ事業は、2016年度に営業利益率が約5%になるまで改善した。
これら施策のベースになったのは「規模を追わず、違いを追う」という指針。テレビにおいては「音と映像にとことんこだわり、徹底的に商品を作り込んだ。4K、有機ELともに他社を量がする映像が再現できる商品を提供していると自負している」とコメント。高付加価値商品へ注力することで、平均単価は2014年度の5万7000円から2017年度は6万7000円にまで上昇する見通しだという。
改革を経て筋肉質の事業へと転換したテレビ事業の先駆けはデジタルイメージング事業だ。スマートフォンの登場により、販売台数が大きく落ち込んだデジタルカメラだが、ソニーでは、継続的に固定費を削減するかたわら、レンズ交換式カメラを中心に、高い収益性を持つラインアップを構築。平井氏は「カメラが趣味なので、担当者にはユーザー視点から注文をしてきた。例えば『RX100』シリーズは、プレミアム感を長期的に維持するため、機能はバージョンアップしてもデザインとサイズは変えないことを指示。新製品が発売されても前モデルもあわせて発売してきた。このラインアップには強いこだわりを持っている」と、RX100シリーズの開発背景を話した。
テレビ事業を再生させた一方で、撤退した事業もある。「3年前に事業撤退を決定したPCに対して、当時赤字となっていたテレビを継続するのはなぜか、という指摘があった。この理由はテレビは違いで勝負できるが、PCはそれが難しいと判断したため、非常に重い決断だった」と当時の判断理由も明らかにした。
コンシューマ・エレクトロニクス分野の安定的な収益貢献に加え、ソニーでは第二次中期経営計画の目標達成に向け、
2016年の経営方針説明で“最大のドライバ”としたゲーム&ネットワークサービスは、「PlayStation 4」が好調なことに加え、「PlayStation 4 Pro」「PSVR」の導入にも成功。ハードが収穫期を迎える中でソフトのラインアップを拡充するほか、多彩なネットワークサービスを投入する。「『PlayStation Network(PSN)』の月間アクティブユーザー数は7000万人。ユーザーのさらなる拡大とPS4のつながりをPSNを強化してプラットフォームの価値を一層上げていくことが今後の挑戦。1993年に生まれたゲーム事業は、グループの柱に成長した。これはソニーの大きなマイルストーンだと思っている。今後はノンゲームコンテンツの開発も推進することで、最大の収益貢献事業になることを見込んでいる」(平井氏)と今後に期待を寄せる。
イメージセンサは、スマートフォン市場の鈍化により販売が低迷したが、複眼化の加速、フロントカメラの高画質化、動画性能の向上などの重視トレンドを盛り込み、強みを発揮できる高性能な製品領域を拡大していくことで、大幅な収益改善を見込む。「車載向け領域を含め、将来への投資を続けるが、大規模投資に見合ったリターンを得ることで、さらなる高収益事業を目指す」(平井氏)とした。
継続的な高収益事業と位置づけるのは、音楽と金融分野。アデルやビヨンセなど大ヒット楽曲を持ち、大きな利益貢献をしている音楽分野は、アーティストの発掘、育成などの根幹事業の実績に加え、有料ストリーミング需要の拡大を見据え、先行投資を実施。金融分野は、安定的な高収益事業とし、中長期戦略の重要な事業と捉えているという。
課題は映画分野だ。6月1日付けでソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの会長兼CEOにアンソニー・ヴィンシクエラ氏が就任。現在事業の収益改善施策の遂行に優先度を上げて取り組んでいるという。平井氏は「ヴィンシクエラ氏は、エンターテインメント業界において技術トレンドやグローバル市場の変化に強く、チームビルディングを重んじる人物。事業の再生を実現してくれると思い、招聘した。結果出るまでには一定の時間を要するが、腰を据えて変革に取り組む」と再生に向けての動きを話した。
平井氏は2018年度以降に向けて
新規事業に関しては「『Life Space UX』、Seed Acceleration program(SAP)などが着実に成果を出している。優れた外部研究者やベンチャーを推進すべく『ソニーイノベーションファンド』を実施し、将来への布石も打っている」(平井氏)と成果を披露した。
「2017年度の営業利益5000億円は20年ぶりの水準。この利益レベルを実現できたことはソニーの歴史の中で一度もない。ソニーグループとして現状維持ではなく、新しい事業の創出が不可欠」と今後の方針を示す。
平井氏は現在のソニーを「コンシューマ・エレクトロニクスから、映画、音楽、金融とさまざまな分野を持つ、非常にダイナミックレンジの広い会社。これだけ幅広い分野を扱える稀有な企業」と分析。その多面性を「例えばNetflixに対して、私たちはテレビやPlayStationなどプラットフォームを提供する一方、コンテンツの制作や供給する一面も持つ。1社に対して、違うリレーションシップがあることがソニーの特長だと思っている」と説明した。
「今のソニーは何会社なのか」と質問が飛ぶと、平井氏は「感動会社。感動を届ける会社」と返答した。
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