5月9日、韓国で大統領選挙が実施され、革新系の最大政党「共に民主党」のムン・ジェイン氏が勝利した。
韓国の大統領選挙戦といえば、選挙運動員による派手なパフォーマンス合戦で盛り上がることで知られているが、今回は序盤からどこか冷めたムード。代わりに目立ったのは、候補者たちによる積極的なテレビ討論に加えて、アプリやSNSを活用した選挙運動だった。
2016年11月にパク・クネ大統領(当時)の長年の知人女性が政権運営に介入していた疑惑が発覚し、韓国社会に激震が走った。以降、パク氏の退陣と責任追求を求める国民の声が急速に広がり、韓国各地では週末ごとに大規模な集会が開かれる事態に。その結果、まずパク氏が大統領としての職務停止を命じられた。
しかし、その後も一貫して「退陣」を求める声は止まず、3月10日、韓国の最高法院は全員一致でパク・クネ氏の罷免という判断を下した。韓国初の女性大統領として、また父(パク・ジョンヒ)に次いで初の親子2代で大統領という初めて尽くしで国民の期待を一手に背負い就任しながらも、これまた初の罷免による失職という後味の悪い幕切れとなった。
そして今回、新たな大統領を選ぶべく5月9日の投票日を目指して選挙戦が繰り広げられた。韓国の大統領選挙といえば、選挙運動員を多数動員し、人気K-POPや歌謡をアレンジした応援歌とダンスによる派手なパフォーマンス合戦で盛り上がることで知られている。
しかし、今回の選挙戦は序盤からどこか冷めた空気が漂っていた。歌やダンスで盛り上げる選挙運動に対して、「国政も経済も危機的状況であるにもかかわらず、候補者たちは能天気に踊っている場合か」といった批判の声が相次いだ。こうした有権者たちからの声に、各候補たちの間ではパフォーマンスによる選挙運動を控える動きが広がった。
一時期と比較してパク氏の動向についての報道は減ったとはいえ、やはりパク氏のスキャンダルがいまだに多くの国民の間に「政治不信」という陰を落としていることが感じられた。
今回、パフォーマンスが自粛された代わりに目立ったのは、候補者たちによる積極的なテレビ討論に加えて、アプリやSNSを活用した選挙運動であった。
韓国は2000年初頭より「IT大国」と形容されるべく日常のあらゆる面においてネットが浸透。この流れから2002年の第16代大統領選挙よりネットでの選挙運動が始まった。あれから15年の年月を経た今回の選挙戦では、ネットによる選挙運動がさらに進化を遂げた様子が見受けられることとなった。
今回の選挙戦では、候補者たちの「アプリ」が登場し活用されていたのが特徴である。たとえば、有力候補と目されていたムン・ジェイン氏とアン・チョルス氏の2人。選挙戦が開始されるとともにリリースされたアプリには、候補者たちの遊説日程や政策に関連した情報が、逐一スマホに送られてくる仕組みとなっていた。
また、アプリと同様にFacebookでも公約を始めとする選挙活動の様子や候補者の動向がアップされるなど、メディアのみならずネット、特にスマホを駆使した選挙戦という印象が強い。韓国では選挙権を持たない中学生や高校生でもスマホでSNSに慣れ親しみ、大統領選挙のニュースを目にする機会も多い。そのため、こうした未成年者たちの間でも選挙が話題に多く上がっていた。
そして迎えた5月9日の投票日。盛り上がりに欠けていたとはいえ国民の関心は高く、期日前投票を含めた投票率は77.2%に上り、2002年以降で最高を記録した。即日で開票された結果、ほぼ予想通りでムン・ジェイン氏に当選が確定した。
ムン氏と並んで有力候補だったアン・チョルス氏や他の候補者たちもアプリやSNSによる選挙戦を展開。しかし、アプリのデザインや見やすさなどを含め、ムン氏およびムン氏の所属政党のセンスの良さを評価する声が聞かれた。ムン氏が若い世代からの支持を集めたのに一役買ったと思われる。
ちなみにムン氏は革新派で、北朝鮮とは対話重視の路線を、対日政策は強硬的な姿勢を示している。有権者が重視していたのは外交政策よりも経済回復であり、政治家としての知名度や経験、政党の安定感などから幅広い世代が「無難だ」としてムン氏を選択したことが伺える。
韓国のアプリやSNSを駆使した選挙戦は、一見すると斬新かつ時代の流れを的確にとらえたものであり、政治に関心が薄いとされる若い世代をも振り向かせる戦術とも評価できる。
その反面、ネットやSNSを利用した選挙運動に対する法の整備はまだまだ十分とは言い切れない部分もある。今後の選挙でもさらにネットは活用されていくものと思われ、選挙とネットのつながりをいかに円滑に進めていくかが課題と言える。
(編集協力:岡徳之)
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